荷車引きが太陽を曳く朝
荷車引きデオンは、勇者隊の後ろで戦利品を運んでいた。
馬より遅い、収納魔法より場所を取る、戦闘になれば邪魔。勇者は報酬を払わず、「車輪を引くだけなら牛でもできる」と荷車ごと彼を雪原へ置き去りにした。
彼の技能には、速さも力も増えるとは書かれていない。
【職業技能《目的牽引》:車輪が道へ接している乗り物一つを、定めた目的地まで牽引する。】
その夜、太陽が昇らなくなった。
北の魔女が天上の道へ氷を張り、太陽神の戦車を東の地平線で止めたのだ。暗闇が三日続き、畑は凍り、魔物が町へ近づく。勇者隊は魔女を倒したが、誰にも太陽の戦車を動かせなかった。
神馬は氷像となり、天上へ届く飛行魔法も尽きた。
デオンは空を見上げた。
黒い雲の裂け目に、金色の車輪が見える。車輪の下には、星でできた細い道が東から西へ続いていた。
乗り物である。
車輪は道へ接している。
必要なのは、神の力ではなく牽引者だ。
デオンは置き去りにされた荷車の綱をほどき、東の空へ投げた。綱は何里も伸び、凍りついた太陽戦車の車軸へ結ばれる。
勇者が笑う。
「人間一人で太陽を引けるものか」
「重さを引く技能じゃない。目的地まで運ぶ技能だ」
デオンは綱を肩へ掛け、雪を踏んだ。
一歩。
天上で金の車輪が軋む。
二歩。
星の道を覆う氷が割れ、夜空へ光の筋が走る。
三歩目で太陽戦車が地平線から動き出した。デオンが西へ歩くたび、空の太陽も同じ距離を進む。凍った川が解け、町の屋根から雪が落ち、眠っていた鳥が鳴き始める。
置き去りにした勇者隊は、眩しさに目を覆った。
デオンは朝日の先頭で、いつもの荷車引きの歩幅を崩さない。
世界中の影が、彼の後ろへ長く伸びた。
太陽戦車が本来の軌道へ戻ると、天上から金の轡が落ちてきた。神馬の代わりに世界を動かした者へ贈る証だった。デオンは首へ掛けず、置き去りにされた荷車の横木へ結ぶ。そこには凍えた村へ運ぶ食料がまだ積まれていた。太陽より先に届けるべき荷物だ。
【職業《荷車引き》が上位職《太陽曳行者》へ書き換わりました。】