落札番号は町内会

 ホテルの地下宴会場で、黒服の男女が番号札を上げていた。

 マフィアの朽葉アントニオは、裏金を洗う闇競売だと聞いている。

 刑事の御所南壮真は、その競売へ潜入するため来た。

 泥棒の縞野結は、落札品を運ぶ係に化けて盗むつもりだった。

 壇上の競売人、堅田文乃が声を張る。

「次の品。《誰にも言えない秘密の黒い箱》!」

 アントニオが札を上げる。

「百万」

 壮真も続く。

「百十万」

 結は驚いた。箱がそれほど高いなら、絶対に盗む価値がある。

「中身を確認してからでも?」

「落札まで開封禁止です」と文乃。

 アントニオが壮真へささやく。

「警察の犬か」

「犬を出品する予定が?」

「とぼけるな」

 結が割って入る。

「分配はどうします?」

「落札者が全部受け取ります」と文乃。

「公平じゃない」と結。

「競売ですから」

 値段は二百万、三百万と上がる。周囲の参加者がざわめく。

「町内会史上、最高額です」と文乃。

「町内会?」と三人。

「はい。商店街復興の慈善競売ですが」

 壮真は案内状を見直した。地下《月の間》ではなく《雪の間》へ入っていた。隣室が捜査対象の闇競売会場だった。

 だがアントニオは引けない。

「中身が何でも、三百五十万」

 壮真も、犯罪資金の動きを確認するため札を上げる。

「三百六十万」

 結は二人を競わせ、落札後に奪う計画へ切り替えた。

「四百万」

 文乃が木槌を鳴らした。

「縞野様、落札!」

 結の顔から血の気が引く。

「私、そんな現金は」

「分割払いも可能です」

 黒い箱が運ばれ、ふたが開く。

 中には町内会長が焼いた、少し焦げたクッキーが十二枚入っていた。箱の裏には《味は誰にも言わないで》とある。

「秘密はこれ?」と結。

「会長が初めて焼いたので」と文乃。

 隣室から警笛と怒号が聞こえた。捜査本隊が本物の闇競売へ踏み込んだらしい。

 壮真はアントニオと結へ警察手帳を見せた。

「こちらの競売でも、収穫はありました」

 文乃が請求書を差し出す。

「まず四百万円をお願いします」

 結は手錠より先に、請求書で逃げ道を失った。