薬を飲まない夜
緋奈の快気祝いから、私は外された。
体調を崩した彼女を一年支え、薬も通院も管理した私だけが、回復を祝えないなんておかしい。診察室では緋奈が言葉に詰まるので、症状一覧を私が読み上げた。医師も「よく見ていますね」と褒めてくれた。
店の窓から見ると、緋奈はコーヒーを飲んでいた。頬に色があり、仲間の話へ何度も声を上げて笑う。私といる時は静かに横になっていたのに、無理をしているのが分かった。医師に止められているはずだ。私は店員を呼び、カフェインレスへ替えるよう頼んだ。緋奈はカップを抱え、初めて私の手を払った。
もう一つ変なのは、彼女の薬箱がないことだった。外出時は私が一回分ずつ小袋へ入れ、飲んだ時刻を写真で送らせていた。飲み忘れが疑わしい日は舌の裏まで見せてもらった。緋奈は嫌がったが、病気の時ほど本人の判断は頼れない。
「もう飲んでないの」
「勝手にやめたら危ないよ」
仲良しグループの侑芽が、検査結果とメールの束を見せた。三人は快気祝いの前に、相談員と医師を交えて半年分の記録を調べていた。私にだけ日時を隠したのは、緋奈が自分の言葉で話す練習をするためだったという。
緋奈の主治医へ「家族です」と連絡し、眠れない、暴れる、記憶が飛ぶと報告したのは私だった。緋奈が否定すると、病識がない証拠だと伝えた。
薬の袋も入れ替わっていた。昼用と夜用のラベルを私が貼り直し、眠った緋奈の予定を代わりに断っていたことまで、部屋のカメラに残っていた。彼女が友人と会う日は眠気の強い袋を渡した、と侑芽は言った。
「休ませてあげたかったの」
「動けなくして、志弦だけを頼るようにしたかったんでしょう」
医師を変えると、緋奈の症状は軽くなった。
三人は私を外し、連絡先と住所を変えるという。私は危険な友人から緋奈を守ったのに、その友人たちに奪われた。
帰り道、バッグのミント缶が鳴った。
底には、緋奈が今夜飲まないはずの青い錠剤が一つ残っていた。