裏切り者と同じ票

鳥羽燦は、自分へ投票した。

児島浩一が目を見張り、久世真奈は「自殺票?」と眉を寄せる。

規則は一文だけだった。

〈裏切り者と同じ人物へ投票した非裏切り者を解放する〉

問われているのは、裏切り者が誰かではない。裏切り者が誰を狙うかだ。

燦は開始から、二人の議論を主導していた。規則の文法を読み解き、端末の仕様を調べ、真奈が仕掛けた嘘も見抜いた。裏切り者にとって、次のラウンドへ残したくない相手は明らかだった。

自分だ。

「裏切り者が自分自身へ入れたら?」と真奈が訊く。

「その可能性もある。でも、裏切り者の目的は正体を隠すことじゃない。私たちのうち一人を消すこと」

秘密説明では、裏切り者だけに追加条件が与えられていたはずだ。最も危険な非裏切り者と票が重ならなければ、裏切り者が単独で勝つ。主催者は、非裏切り者同士が犯人探しに夢中になり、投票先の心理を読まないと考えている。

浩一は燦を睨んだ。

「自分が一番危険だという思い上がりだ」

「そう見せるために、ここまで全部解いた」

燦はわざと端末の解除方法を口にし、真奈の嘘を大声で暴き、二人へ自分の有用性と脅威を刻みつけてきた。自分への敵意を育てることが、投票先を固定する準備だった。

集計音。

〈裏切り者、児島浩一〉

〈児島浩一の投票先、鳥羽燦〉

〈鳥羽燦の投票先、鳥羽燦〉

〈一致〉

燦の首輪が緑へ変わる。

浩一が椅子を蹴った。

「俺が誰へ入れるか、最初から誘導していたのか」

「あなたを見つける必要はなかった。裏切り者が誰でも、私を消したくなるようにすればいい」

『自己投票は勝利を放棄する行為です』

主催者の声に、燦は笑った。

「普通の選挙ならね。この規則では、敵の票と重なる場所が安全地帯」

出口へ向かう彼女の背後で、二つの同じ票が並んでいた。一つは殺すため、一つは生きるため。同じ名前でも、意味だけが正反対だった。