襖一枚ぶんの告白
大部屋は、中央の襖で二つに分けられていた。
こちらに四人、向こうに四人。先生は「別の部屋だと思って静かにしろ」と言ったが、紙一枚ほどの襖に秘密を止める力はなかった。
消灯後、向こう側から恋バナが聞こえてきた。
「好きな人いる?」
「いる」
「同じ学年?」
「うん」
こちらの四人は息を止めた。声の主は、昼間ずっと一緒だった友達だ。聞くつもりはないのに、布団を襖へ寄せる音が四つ重なった。
「名前は?」
長い沈黙。
「路加」
私は枕へ顔を埋めた。
昼間、路加は彼女の歩幅に合わせて何度も立ち止まっていた。土産物屋では、彼女が手に取った髪飾りを同じ棚の反対側から見ていた。本人だけは隠せているつもりで、班の全員が知っていた。彼女だけが、たぶんまだほとんど何も知らなかった。
路加は明日の班別行動で、彼女と同じ班だった。しかも私は、路加本人から「明日、何を話せばいい」と相談されていた。
向こうで「絶対言いなよ」と声が上がる。
私は黙っていられず、襖を指で二回叩いた。
「路加も、たぶん同じ!」
部屋の両側が静まり返った。
「聞いてたの?」
「聞こえたの!」
「たぶんって何!」
質問が襖越しに飛んでくる。私は、夕食前に路加から相談されたことを白状した。彼は今日ずっと彼女の私服を褒める練習をしていたこと、結局一度も言えなかったことを説明した。
向こう側で小さな悲鳴が上がり、誰かが「明日、逃げないでよ」と念を押した。
そこへ先生が見回りに来た。
「今、誰が逃げると言った」
最後に聞こえた言葉だけで勘違いしたらしい。襖を開けると、八人が境目へ集まり、布団が大渋滞していた。
全員まとめて叱られたあと、先生は襖をきっちり閉めた。
暗闇で、向こうからもう一度、二回のノックがした。
「明日、逃げない」
彼女の声だった。
翌朝、路加は集合場所で紺のシャツの襟を何度も直していた。彼女が近づくと、昨日練習したはずの言葉を全部忘れた顔をした。
私は二人の背中を押さなかった。
襖一枚ぶん先へ進むのは、本人たちの仕事だった。