言葉の獣
地下鐘が鳴るたび、ダグレンの口から文字が一つ落ちた。
黒い歯の形をした文字は石床で砕ける。彼がこれまで勝利の代価として失った言葉だった。
敵の群れは祭壇の向こうにいる。言葉を食う獣たちが、避難民の名を奪おうとしていた。
「あと一度勝てば、話せなくなる」
メルヴァが彼の顎を押さえる。唇の端から牙が覗いていた。
ダグレンの能力《喰音》は、敵に勝つたび人の言葉を一音失い、その音の代わりに獣の力を得る。『あ』を失ったとき顎が強くなり、『し』を失ったとき爪が伸びた。今では自分の名さえ正しく発音できない。
「逃げる」と言いたかった。
「げ、る」
音が欠け、意味が崩れる。
獣たちが襲いかかる。ダグレンは剣を捨て、四つ足で走った。喉笛へ噛みつき、爪で腹を裂く。人の戦い方ではない。だが避難民の列から遠ざけるには最も速い。
最後の一匹がメルヴァへ飛ぶ。
彼はその背へ食らいついた。獣と一緒に階段を転がり、地下鐘の真下へ落ちる。
「ダグレン!」
彼女の声を聞いて、辛うじて自分を思い出す。
獣の首を折った。
勝利。
舌の中央が裂け、二股になった。口の中に残っていた人の音が、すべて黒い歯となって床へ落ちる。
言葉食いの群れは消え、避難民の名は守られた。
メルヴァが駆け下りてくる。血だらけの彼を抱き起こそうとしたが、ダグレンは反射的に牙を剥いた。
「私よ」
彼女は胸を指す。「メルヴァ」
彼はその音を覚えている。大切な名だったことも分かる。だが口はもう、人の形を作れない。
喉の奥から低い唸りが出る。
メルヴァは泣きながら笑った。「今、私の名前を呼んだ?」
ダグレンはうなずこうとした。首の骨が伸び、獣のように横へ傾く。
群衆が英雄を迎えに来た。誰かが彼の名を尋ねる。
メルヴァは答えようとしたが、ダグレンが袖を噛んで止めた。
人の名を与えられれば、それを食べてしまう気がした。
彼は自ら暗い階段の奥へ戻った。
最後に振り返った口には、言葉の代わりに三列の牙が並んでいた。