誓約環は嘘を焼く
聖療院の祝賀会で、子どもたちを守る治癒結界が突然消えた。
幸い被害はなかったが、結界核にはエウドキア家の解除紋が残っている。
「新しい聖女を妬み、奇跡を失敗させようとしたのだな」
婚約者ドミティオは、祈りの壇上で告げた。
「エウドキア・クレスタ。婚約を破棄し、神殿から追放する」
結界の内側には、熱を出した子や歩けない子が眠っていた。エウドキアは七晩ほとんど眠らず、一人ずつ異なる魔力に合わせて守りを編んだ。ドミティオは完成式にだけ現れ、聖女の奇跡として民へ宣伝した。その結界を壊した罪まで彼女へ渡すつもりなら、祈りより先に事実を示す必要がある。
エウドキアは解除紋へ目を凝らした。追放されれば結界へ近づけず、子どもたちの再保護も遅れる。自分の婚約より先に、治療を再開できる形で真相を確定させる必要があった。紋は写せる。だが結界を築いた者全員が交わした誓約は、破った本人から離れない。
「大神官イオアン。誓約環を外してください」
イオアンは祭壇の銀環を彼女へ渡した。彼女を庇う祈りは唱えない。誓約環は、結界を故意に壊した者の魔力だけを焼き印として追う証拠魔法である。
エウドキアが銀環を壊れた核へ置く。環は赤く光り、床を転がった。人々の足を避け、壇上へ上がり、ドミティオの腕へはまる。
焼けた光の文字が浮かぶ。
――救済演出のため、意図的に解除。
「聖女が再構築すれば、民は奇跡を信じた。誰も傷ついていない」
「守られるはずの子どもを、演出の観客にしたのですね」
ドミティオは銀環を外そうともがきながら、婚約を続ければ神殿内で処理できる、君の地位も守ると言った。
「守ると言いながら、最初に追放を命じた方を信じるほど、祈りは盲目ではありません」
エウドキアは婚約の聖紐を解いた。
「破棄を受諾します。わたくしは地位ではなく、治癒院を守ります」
元婚約者に背を向ける。イオアンが、独立した聖療院の院長として、と手を差し出した。エウドキアは誰かの奇跡になるのではなく、毎日の治療を選び、その手を取った。