謝罪文を読まない席
摂政主催の晩餐会で、フローネの椅子だけ少し低かった。
高い椅子では足が浮き、古傷のある腰が痛む。摂政ガスパルは、彼女が以前の会議で足台を何度も蹴り直していたことを覚えていた。
「この高さなら楽か」
「はい」
彼は敷布の厚さも選ばせ、フローネが薄いものを指すと、それ以上重ねさせなかった。政敵の爵位を一晩で奪う冷酷な摂政が、彼女の身体については善意さえ押しつけない。
主菜のあと、侯爵が一枚の紙を差し出した。
「社交界復帰のための謝罪文です。皆さまの前でお読みなさい」
フローネは紙面を見た。そこには「私生児の身で高位の席へ座った非礼を詫びる」と書かれている。
「読みません」
侯爵の眉が上がる。
「摂政閣下の寵愛で席を得たのだから、謙虚さを示すべきだ」
「私は王立病院の会計を立て直した功績で招かれました。生まれを謝る気はありません」
ざわめきが広がる。侯爵はガスパルへ向く。
「閣下からお諭しを。彼女を守り続ければ、ますます身の程を忘れます」
摂政は謝罪文を受け取った。
「誰が書かせた」
侯爵が胸を張る。
「社交秩序を守る有志で」
ガスパルは紙を二つに裂いた。
「守る相手を間違えている」
「ですが高位席に私生児が」
「今、私の前で彼女の出生を侮辱したな」
侯爵の顔から血の気が引く。
摂政はフローネへ尋ねた。
「席を離れたいか」
「いいえ。柑橘の菓子が出るまで残ります」
「では残れ」
彼は侯爵一派だけを退席させ、空いた上座をフローネへ勧めなかった。彼女が選んだ低い椅子をそのままにする。
「フローネは謝罪しない。彼女が何を成したかではなく、どこから生まれたかを問題にする者が謝れ」
給仕が上座の豪華な椅子を運ぼうとしたが、フローネは首を振った。
「今の椅子が楽です」
ガスパルはすぐに止める。
「功績を認めることと、高い椅子へ座らせることは別だ」
さらに菓子には、彼女が苦手な杏仁飾りを載せないよう厨房へ伝えた。
フローネが薄い敷布も途中で不要になったと言うと、ガスパルはすぐ外させた。一度選んだものを最後まで使う義務もない。彼女が気持ちを変えるたび、席のほうが静かに合わせられた。
大広間の記録官が、その言葉を正式な命令として書き留めた。