赤いランプを消さない朝

牧野灯は、配信後に必ず赤いランプを消した。

机の端にある〈LIVE〉のランプ。消せば、ゲーム配信者〈あかり窓〉から、事務職の牧野灯へ戻れる。朝のオンライン会議までに機材を片づけるのが、二つの生活を混ぜないための儀式だった。

その日だけは、徹夜になった。

近所の保護猫施設が閉鎖の危機だと知り、急きょ寄付を募るゲーム配信をした。視聴者と朝まで協力ゲームを続け、目標額に届いたのは八時四十分。九時の朝礼まで二十分しかない。

灯は化粧だけ直し、会社の会議へ接続した。

背景ぼかしを押し忘れた。

画面の後ろには赤い〈LIVE〉、猫の募金箱、寄付額の表示されたモニター。課長が話を止めた。

「牧野さん、その部屋……配信中?」

「いえ、今終わりました」

「徹夜したのか」

「はい。すみません」

同僚の画面が一斉に静止したように見えた。勤務前に遊んでいたと思われる。配信者だと検索される。灯はカメラを切ろうとした。

「消さないでください」

声を上げたのは、普段ほとんど発言しない新入社員の野々宮だった。

「その募金、私も参加しました。先月あの施設から猫を引き取ったので」

彼女は膝の上へ茶色い猫を抱き上げた。

「配信者が牧野さんだとは知りませんでした。でも、遊んでいただけじゃないです」

課長は少し黙り、灯へ言った。

「善意でも、体調を崩せば仕事に影響する。今日は午前休に切り替えなさい」

「でも」

「寄付の話と勤怠の話は別。配信を責めているんじゃない」

灯は初めて、二つを分けることは隠すことと同じではないと知った。

会議を退出する前、野々宮が個別チャットを送ってきた。

〈あかり窓さん、猫の名前はマドです。今度写真を送ります〉

灯は午前休の申請を出し、ベッドへ向かった。赤いランプの前で手が止まる。

いつもなら消す。

けれど今日は、配信者だった夜を隠すための灯りではなかった。

灯は明るいままのランプを机に残し、カーテンを閉めた。

赤い文字は、朝の部屋で静かに光り続けていた。