返却口の灯り

元コインランドリーを改装した居場所には、古い洗濯機が一台だけ残っていた。百円を三枚入れると動くが、返却口の赤いランプは壊れている。

ある週、共同財布から二千円分の硬貨が消えた。藤波岳宗は、夜中に洗濯機を使っていたという理由だけで疑われた。本人は否定し、翌朝には荷物をまとめた。

その前に洗濯機が止まった。中には全員の作業着とタオルが入り、水を吸ったまま動かない。

蒲生環奈は工具箱を床へ置いた。

「これ直したら出ていく」

岳宗が言うと、環奈は「先に水を抜く」とだけ答えた。

二人で電源プラグを抜き、本体を壁から離して背面パネルを開けた。排水ホースには靴下が詰まり、硬貨の機械にも何かが噛んでいる。岳宗がホースを外し、環奈がバケツを構えた。間に合わず床へ水が広がり、二人は雑巾を滑らせながら笑いそうになった。

硬貨箱を開けると、内部の隙間から百円玉が六枚落ちた。返却レバーが曲がり、投入された金が途中で止まっていたらしい。

「六百円」

「足りないね」

消えた二千円の説明にはならない。疑いは晴れず、環奈も謝らなかった。二人はレバーを戻し、切れていたランプの配線をつないだ。

洗濯機が再び回り始める。赤い灯りが点き、返却口の中を照らした。岳宗は濡れた作業着が回るのを、最後まで見届けた。

脱水を終えると、環奈は洗濯物を人数分の籠へ分けた。岳宗の籠も捨てず、いつもの棚へ置く。中には彼の服だけでなく、誰のものか分からない片方の靴下が入っていた。

籠を棚へ戻したころ、仕事から帰った住人が一人ずつ濡れた靴で入ってきた。六百円を見ても、誰も岳宗へ謝らなかった。環奈は回収額と故障箇所を紙へ書き、共同財布の横へ貼った。明日から硬貨箱は二人で開ける。岳宗は疑われない仕組みが必要なほど信用がないのだと思い、それでも一人で追い出されるよりましだと考えた。

赤いランプは、硬貨が詰まると点滅するようになった。岳宗は使い方を厚紙へ書き、最後に〈止まったら二人で開ける〉と足した。

岳宗は荷物を持ち上げ、それから下ろした。靴下を共同の忘れ物箱へ入れ、自分の籠を棚の奥まで押し込んだ。