迷宮核は共有しない
半月形の金貨が二枚、迷宮核の台座で一つの円になっていた。
「管理権を半分ずつ持てば、安心だ」
勇者ギルド代表ガレスは、前の人生と同じ爽やかな笑顔を見せた。
若き迷宮主ミオラは、人間との和平を望んで共同管理契約を結んだ。署名直後、ガレスは「緊急時の多数決」権限を使った。彼の半分には、幽霊会員百名分の票が紐づいていたのだ。
ミオラは迷宮核から締め出され、魔物たちは素材として売られた。最後に残った彼女自身も、攻略記念の見世物にされた。
檻の中で核との接続が切れた瞬間、ミオラは和平調印の日へ戻った。
同じ青い結晶。同じ半月金貨。同じく、入口で尻尾を振る番犬魔獣。
ガレスが金貨を重ねる。
「私を信じてくれ。人間と魔物が共に暮らす第一歩だ」
前回は、その理想に署名した。
「共同管理はしません」
ガレスの笑顔が薄くなる。
「和平を拒むのか?」
「入場許可は出します。管理権だけ渡しません」
「それでは我々の安全を保証できない」
「あなたの安全ではなく、私の迷宮を奪うためでしょう?」
ミオラは契約書を迷宮核へかざした。表面には《権限五割》としかない。だが核の管理画面で契約者一覧を開くと、ガレスの背後へ百の名が連なった。全員、勇者ギルドの倉庫用ダミー会員だ。
《契約後の議決権:ガレス側百一票、ミオラ側一票》
見守っていた魔物たちから低いうなりが起こる。
ガレスは肩をすくめた。
「組織には人数がいる。当然の登録だ」
「なら、その百人をここへ呼んでください」
「遠征中だ」
「全員、同じ誕生日で?」
核の画面に登録情報が展開される。住所も署名も同じ。作成時刻は今日の夜明け。
ガレスが半月金貨を台座へ押し込もうとした。ミオラはもう一枚を引き抜く。
円が完成しなかったため、共同契約は拒否された。代わりに、不正な管理権取得を試みた者への防衛規則が起動する。
床がぱかりと開いた。
ガレスだけが、初心者用の粘着沼へ腰まで落ちる。攻撃力はない。だが嘘をつくたび、蛍光桃色に光る仕掛けだ。
「誤解だ!」
沼が眩しく輝いた。
「話し合おう!」
さらに明るくなった。
前の人生では契約成立と同時に、《迷宮主権限を喪失》と表示された。
今回は青い結晶が高く鳴る。
《不正共有を拒否》
《迷宮主ミオラの単独管理権を永久固定》
《和平用ゲスト門を開放します》
番犬魔獣はガレスではなく、初めてミオラの隣へ座った。