透明袋が二枚
県警の証拠整理室で、保管檻の親鍵が机上から消えた。管理官の笹生は鍵を記録簿へ置き、三人の担当者に押収品の不足を問いただしていた。封印プリンターが紙詰まりを起こし、全員が機械を囲んだ一分後、鍵はない。整理室は内側から施錠され、監視映像にも退出者はいなかった。
容疑者は刑事の仁平、検察事務官の硯谷、証拠係の門叶。保管檻には三人の手続違反を示す原本がある。衣服、鞄、引出しを調べても鍵は出ない。ただし机上の封印済み透明袋は、証拠保全のため勝手に開封できなかった。
証拠袋は封印番号を記録した後でなければ開けられず、仁平も硯谷も規則違反を恐れて手を出せなかった。門叶は「透明なのだから外から見れば十分」と繰り返した。透明であることは、何も隠せない保証のように思える。だが同じ透明物を重ねれば、境界線そのものが見えにくくなる。
手掛かりは三つだけだった。第一に、空のはずの透明袋一枚だけ、標準重量より十九グラム重かった。第二に、その袋の印刷された方眼と製造番号はわずかに二重に見え、下端の熱封印は通常の二層ではなく四層あった。第三に、紙詰まりの直前、透明袋を二十枚数えて机へ並べたのは門叶だった。
門叶は「袋は封印機を通した後です。鍵を入れれば輪郭が見える」と言った。だが二枚の袋をぴったり重ね、その間へ平たい鍵を入れれば、内側の袋が鍵へ沿って反射を散らし、上からは空袋の皺に見える。
私は重量の違う袋だけを開封した。重ねられた二枚の間から親鍵が滑り出た。「十九グラムは鍵の重さ、二重の印刷と四層の封印は袋が二枚である証拠、準備した門叶さんだけが重ねる機会を持つ。鍵を証拠袋の中へ入れたのではありません。開けられないという規則そのものを利用し、透明な二枚の境界へ隠したのです」門叶さんは、封印規則を破る者がいないことまで利用しました。鍵の輪郭を消したのは不透明な箱ではなく、反射の重なりです。重量、印刷、層数の三点は、目視という最初の検査がなぜ失敗したかまで論理的に説明します。