選んだ夏服
今年から、夏服を二種類から選べるようになった。
スカートとリボン。スラックスとネクタイ。
私は申込書で後者に丸をつけた。
届いた制服を家で着た夜は、鏡の前に十分立った。嬉しいのに、学校で見られることを考えると息が浅くなった。
衣替え初日の朝、校門の手前で止まった。
白いシャツ、紺のスラックス、細いネクタイ。校則どおりなのに、自分だけ規則からはみ出している気がした。
後ろから肩をたたかれた。
同じクラスの友達だった。いつものスカート姿で、私を上から下まで見た。
「遅刻するよ」
それだけ言って歩き出す。
「何か言わないの」
思わず聞いた。
「ネクタイ曲がってる」
友達は結び目を直した。
「似合う?」
「昨日からその質問、何回答える練習したと思う?」
笑ったあと、真顔で言った。
「似合う。というか、やっと制服が本人に追いついた」
胸の奥がほどけた。
教室へ入ると、何人かが振り返った。驚く顔、興味だけの顔、すぐに教科書へ戻る顔。
一人が「どうしてそっち?」と聞いた。
答えを考えていたら、友達が先に言った。
「選べるから選んだ。以上」
私は自分で続けた。
「こっちのほうが、私だから」
声は震えたが、聞こえた。
一時間目、椅子へ座る。スカートの裾を気にしなくていい。階段を上る。風を押さえなくていい。
小さな動作が全部、自分のものになった。
昼休み、別のクラスの後輩が廊下で声をかけてきた。
「来年、私も選びたいです」
私は何と返せばいいか分からず、ネクタイを直した。
「試着したほうがいいよ」
現実的すぎる答えに、友達が笑った。
衣替えは、同じ制服へ一斉に着替える日ではなくなった。
私にとっては、初めて自分で選んだ姿のまま、校門を越えた日だった。
成長したのは体ではない。
鏡の中にいた自分を、学校の中まで連れてこられたことだった。
卒業式では、私は迷わず同じ形の冬服を選んだ。集合写真の中で特別には見えなかった。その普通さこそ、校門前で立ち止まった私が欲しかった未来だった。