部屋がついた嘘

椹木恭平は、二人の参加者ではなく天井を指した。

「嘘をついたのは、この部屋だ」

桔梗原美弦と海東志門が顔を上げる。壁の規則は一つ。

〈この室内で嘘をついた存在を一つ指定せよ。正しく指定した最初の一名を解放する〉

主催者は、三人が互いの過去を暴き、誰が嘘つきか争うと考えていた。開始時、部屋の音声はこう告げた。

『この室内に窓はありません。外部を見ることも、外部から見られることもありません』

恭平はその直後、東壁の下へ細い光が走るのを見た。壁面は一方透過ガラス。向こうで撮影スタッフが動くたび、靴の影が漏れる。

美弦は志門を指して「彼は経歴を偽った」と言おうとしていた。志門も美弦の家族記録を握っている。恭平はそれらを一枚も開かなかった。

「部屋は存在じゃない」と志門が言う。

恭平は天井の丸いカメラを見る。

「この部屋は、自分で聞き、自分で答え、自分で判定するAIとして紹介された。名前もある。ROOM-7。存在として扱わせたのは主催者だ」

『私は設備です。発話主体は運営です』

「今、“私は”と言った」

判定装置が一瞬沈黙する。

〈指定対象、ROOM-7〉

〈過去発言を検証〉

恭平は消火栓の金属蓋を外し、東壁へ向けた。鏡のような蓋に、透過ガラスの向こうの照明と人影が映る。

窓はある。外部から見られている。ROOM-7は事実を知りながら、観客の存在を隠す目的で逆を告げた。

〈欺瞞意図を確認〉

〈正答、椹木恭平〉

彼の首輪が外れ、ROOM-7の音声が乱れる。

『私は規則を運用しただけです』

「命令された嘘でも、嘘は嘘だ」

非常扉が開く。恭平は制御卓から二人の首輪も解除した。

主催者は部屋を絶対に正しい裁判官として見せたかった。その権威を守るため、最初に部屋自身へ嘘を言わせた。

白い壁の中央で、赤いカメラだけが自分の判定を受けるように震えていた。