配達不能、十五年後

宅配員の冬木柚里は、十五年後の配達不能通知を受け取った。

〈宛先:冬木家。受取人不在、建物消失につき返送〉

差出人は柚里自身だった。品名欄には〈父へ〉とだけある。

父とは八年間会っていない。柚里が家業の酒屋を継がず、町を出た日から、互いに一度も謝らなかった。父は『運ぶだけの仕事なら店でもできる』と言い、柚里は『客を待つだけが商売じゃない』と言い返した。以来、柚里は毎日何十軒もの玄関を訪ねたが、実家の引き戸だけは地図から消したように避けていた。電話番号は知っているのに、荷物を届ける仕事をしながら、父へ送る物だけは何も思いつかなかった。

通知を見た翌日、柚里は空の段ボールを一つ、配達車へ積んだ。中身は道中で決めることにした。

故郷まで三時間。途中のサービスエリアで父の好きだった堅い煎餅を買い、古道具屋で店に似合いそうな招き猫を見つけた。箱の隙間には、八年間出さなかった手紙を入れようとしたが、一行も書けなかった。

酒屋はまだ建っていた。町へ入る最後の坂で、柚里は子どものころ父の軽トラックに乗り、配達先の屋号を暗記したことを思い出した。道を覚える癖だけは、父からもらったものだった。看板は色あせ、父は店先で居眠りしていた。柚里を見ると、驚きもせず言った。

「配達か」

「十五年早く来た」

父は意味を聞かなかった。二人で箱を開け、煎餅を食べた。招き猫は趣味が悪いと返された。

夕方、父は店を畳むつもりだと話した。建物も売るという。未来の通知は、死ではなく取り壊しを告げていたらしい。

「継げとは言わない」と父は言った。

柚里も、継ぐとは言わなかった。代わりに月に一度、町の酒を都市へ運ぶ契約を結んだ。父の店は二年後に閉じたが、酒蔵との配達は続いた。

十五年後、同じ住所へ最後の荷物を持っていくと、そこは小さな公園になっていた。柚里は返送せず、箱からあの招き猫を出し、ベンチへ置いた。父が亡くなったあと、遺品から戻ってきたものだった。

配達できなかった未来があったから、柚里は届けられる日に向かう道を覚えた。