金庫にない三百枚
王立神殿銀行の報告では、国庫預金は金貨四千七百枚だった。
だが財務局の帳簿は五千枚。差は三百枚。国庫係は横領の疑いで床へ跪かされ、日没までに説明できなければ処刑される。
詠介は前世で銀行勘定調整をしていた。両方の数字を同じ日に揃えるため、未処理の札を集める。
処刑台の砂時計には、あと半分しか砂が残っていなかった。国庫係は三十年勤め、欠けた銅貨一枚まで自分の給金で補ってきた。それでも二つの帳簿が違えば、誰も彼の誠実さを証明できない。詠介もまた、数字は人柄を信じないからこそ、同じ時点へ揃える必要があると知っていた。
彼は預入札の日付と、手形の裏の換金印だけを確認した。金貨そのものを探し回らない。五百枚は銀行へ向かう途中、二百枚は銀行から出る途中にある。二つの途中を紙の上へ戻すと、差三百は霧のように消えた。砂時計の最後の粒が落ちる直前、銀行使者の更新数字が五千二百へ変わり、続く手形で五千へ戻る。広場全体が調整表の再現になった。
昨日夕刻、税務所が預けた金貨五百枚。財務局では入金済みだが、神殿銀行の閉門後だったため報告にはまだ載っていない。
三日前に出した橋修理の支払手形二百枚。財務局では支出済みだが、請負人がまだ銀行へ持ち込んでいない。
銀行残高四千七百に、未反映の入金五百を足す。未決済の手形二百を引く。
結果、五千。
財務局の帳簿と一枚まで一致した。
「三百枚が消えたのではありません。二つの時計が違う時刻を指していただけです」
大臣は言葉の綾だと怒鳴った。そこへ神殿銀行の使者が朝の更新報告を持ってくる。昨日の五百枚が加わり、預金は五千二百。直後に請負人が手形二百を換金し、残高は五千へ戻った。
詠介の調整表どおりだった。
国庫係の縄が切られ、大臣は逆に虚偽告発の責任を問われる。王は二つの残高が重なった中央の「五千」を指で叩いた。
「金庫だけ見ても、金の途中は見えぬか」
詠介へ国庫会計官の印を渡す。
「今後すべての月末残高を、お前が一致させよ。今日から任命する」