鍵のない手錠

袋井玄警部補は、押収された鍵を手錠へ差し込んだ。

入らなかった。

向かいの西脇悠馬は、腫れた頬で笑った。逮捕時に警察官の鍵を奪って片手を外し、堂島巡査部長へ殴りかかった容疑。抵抗を抑えるための打撃だったとして、西脇の負傷は処理されている。

「報告書では、この鍵で手錠を外したことになっている」

「だから何度も言った。俺は鍵なんか触ってない」

「あなたの上着のポケットから出た」

「署に着いてから調べたポケットだ」

玄は鍵を回そうとした。先端の形が合わず、半分も入らない。手錠は新型、鍵は旧型訓練具のものだった。

監視窓の向こうで堂島が腕を組んでいる。端末に『被疑者が別の鍵とすり替えた可能性を詰めろ』と届いた。

「逮捕現場で、手錠は片方外れていた?」

「外れてない。両手を後ろに掛けられたまま蹴られた」

「なぜ蹴られた」

「堂島さんの名前を知ってたからだ。前にも路上の若いのを殴ってるのを見た」

西脇の言葉は、警察への恨みで作った話にも聞こえる。玄は、彼が店の窓を割って逃げた事実を知っていた。抵抗した可能性もある。

「この鍵が合わないことと、暴行の有無は別です」

「そうだよ。だから別々に調べろ。鍵が嘘なら、殴った理由も本当か疑え」

証拠袋のラベルを見る。鍵の発見時刻は二十二時十四分。ところが西脇の身体検索映像は二十二時二十七分から始まり、ポケットを裏返す場面は二十九分だ。鍵は、見つかる十五分前に証拠登録されている。

登録者は堂島。さらに証拠袋の写真には、封をする前から堂島の机の木目が写り込んでいた。

「誰も鍵が合うか試さなかったのか」と西脇が訊く。

「試せば、報告書が壊れるからでしょう」

玄は初めて、断定して答えた。

堂島が取調室へ入り、鍵を取り上げようとした。玄は手錠を机へ固定し、鍵が途中で止まった状態を証拠撮影した。時計、証拠袋、身体検索映像の時刻も同じ画面に入れる。

その写真を不適合証拠の申告票へ貼り、鍵のない手錠を堂島の前へ置いた。