鍵束の守護者

オスカー・ナイブは、腰に古い鍵束を下げていた。

講義室を開け、倉庫を閉め、夜になれば門を巡る。能力測定に出た【権限値:1】を見て、警備科のメルキオ・サーンは笑った。

「ただの鍵番だ。学院防衛は、選ばれた者の印章で行う」

公開測定は、侵入者の幻影を防ぐ訓練だった。メルキオは銀の統制印を掲げ、全扉を自分の命令下へ置く。どこでも開けられることが、最高の権限だと誇った。

侵入者が現れる。

メルキオは追跡のため、廊下の扉をまとめて開いた。幻影はその一本道を滑るように進み、資料庫、薬庫、寄宿舎へ枝分かれする。統制印で閉じようとしても、同時に開いた扉が互いの命令を打ち消した。

オスカーは鍵束を鳴らした。

彼の鍵は、どこでも開ける万能鍵ではない。教室には教室の鍵、薬庫には薬庫の鍵。面倒で、遅く、持ち歩けば重い。だが、奪われても開く場所は限られる。

オスカーは侵入者を追わなかった。曲がり角ごとに扉を閉め、鍵を回し、廊下を小さな区画へ分けていく。幻影は進路を失い、最後は誰もいない中庭へ閉じ込められた。

警備盤は、統制印が奪われた場合の幻影まで映した。万能の印を持つ侵入者は、学院の奥まで迷わず進む。対して古い鍵束は、奪った鍵に合う扉しか開かない。面倒な区分こそが、被害を狭い場所へ閉じ込めていた。

メルキオは銀印を取り戻そうと手を伸ばす。

「全扉を支配できるほうが上だ」

オスカーは鍵束から薬庫の鍵だけを外し、警備長へ渡した。

「支配する人が間違えたとき、全部が開く仕組みは防衛ではありません」

夜ごとの巡回記録も壁へ浮かぶ。緩んだ蝶番、閉まりにくい窓、紛失した予備鍵。オスカーは侵入者が来る前に、小さな入口を潰し続けていた。事件が起きないため、彼の仕事は単なる開閉として扱われた。

中庭へ閉じ込められた幻影が消え、学院の扉は必要な場所だけ静かに開いた。

新式の警備盤が、命令の強さではなく被害を止めた境界を光らせる。古い鍵穴が学院全体で点灯し、すべてオスカーの鍵束へつながった。

【学院防衛寄与:98%】

警備長はメルキオから統制印を回収し、オスカーへ守護鍵の鎖を掛けた。

【警備科・権限更新】

守護鍵管理者:オスカー・ナイブ

入室許可申請者:メルキオ・サーン