鎖を吊るす軒

北の開拓刑地では、囚人上がりの住民だけ浴場を使えなかった。

刑期を終えて畑を持っても、守備兵用の浴場には入れない。彼らは凍った用水路で洗い、病気になれば「だらしない」と罰金を取られた。

新しい監督官マーヤは、古い倉庫を共同浴場へ変えると決めた。

利用料は守備兵も開拓民も一回銅貨一枚。警備費を理由に元囚人へ上乗せしない。問題を起こした者だけ、その行為に応じて一時利用停止とし、前歴全体を罰し直さない。

建設労働も刑罰にはしなかった。参加は自由で、一刻働くごとに利用札二枚。守備兵が働いても同じ枚数。作業表には身分欄を作らず、名前、時間、受け取った札だけを書く。

古参隊長が机を叩いた。

「囚人に選ばせれば誰も働かん」

マーヤは答えず、最初の作業札へ自分の名を書いた。

翌朝、元石泥棒の石工が隣へ名を記した。

「選べる仕事なら、俺の腕で返す」

次に若い守備兵、パン屋、洗濯女が続いた。強制されないからこそ、作業時間は正確だった。遅刻も水増しも、同じ表を見る仲間にすぐ分かる。

費用の残高は毎晩掲示され、罰金は浴場へ入れないと明記された。過去の罪を湯の燃料にする制度にはしなかった。

開業の日、守備兵と開拓民が同じ列に並んだ。隊長は不満そうだったが、自分も銅貨一枚を箱へ入れた。誰も彼を先へ通さない。

浴場の軒を支える金具は、旧収容所の鎖を溶かして作られていた。輪の形は残っているが、もう誰の手首も縛らない。

その下に札が掛かる。

――先に来た者から。過去は順番を変えない。

隊長は入浴後、作業表の空いていた翌週の湯番へ自分の名を書いた。謝罪はしなかったが、守備兵一人分と同じ二枚の札を受け取った。元石泥棒はそれを見ても過去を責めず、炉の扱いだけを教えた。浴場では善人か悪人かではなく、今日の仕事が一刻なら一刻と数えられる。マーヤはその単純さを守るため、表の身分欄を永久に空白のまま残した。

最初の湯気が、鎖の輪を自由にくぐって空へ抜けた。