鐘より先に刈る大麦
軍楽隊のラグンは、退却の合図を吹いて兵を救ったため処罰された。
将軍の命令は突撃だった。だが谷の先に伏兵がいるのを見つけ、彼は勝手に角笛を鳴らした。
千人が生き延び、ラグンだけが辺境へ追放された。
荒れた修道院跡の横で、彼は大麦を一列育てた。
芽が出た日も、穂が膨らんだ日も、祝福の鐘は鳴らなかった。代わりにラグンは古い角笛を風除けの支柱へ吊り、鳴らさずに畑を見守った。
秋の午後、空に黒い雲が集まる。
雨が来る前に、熟した最初の一列だけを刈らなければならない。
ラグンは鎌を振った。
しゃっ、しゃっ、と穂が倒れる。
戦場では一度の合図に千人が動いた。今動くのは自分の腕と、風に揺れる麦だけだ。
束を作り、肩へ担ぐ。乾いた穂が頬をくすぐり、日なたの匂いがした。
雲の速さと残った株を見比べる。あと五束。戦場で兵の退路を測った目は、今度は一粒も雨に流さないために働いた。最後まで刈れると判断した自分を、誰の許可もなく信じた。
最後の束を軒下へ入れた瞬間、遠い砦から軍の鐘が鳴った。
三度、二度、三度。
それは復隊召集の符号だった。
続いて騎兵が一人、雨雲より早く到着する。
「将軍が谷で包囲された。お前の目と角笛が必要だ。帰還命令を」
ラグンは封書を受け取った。
「今日はもう、合図に従う仕事を一つ終えた」
「何の合図だ」
「麦の穂が頭を下げた」
騎兵が呆れる間に、ラグンは一握りの粒を外し、乾鍋で煎った。
ころころ転がる粒が、やがてぱちぱち鳴り、香ばしい匂いを放つ。
水と山羊乳を加え、塩漬け肉と煮る。大麦がふくらみ、とろりとした粥になった。
最初の雨粒が屋根を叩く。
ラグンは熱い粥をすすった。粒には歯応えがあり、噛むほど甘い。
ずぶ濡れになった騎兵へ、もう一椀よそう。
「出発は?」
「雨宿りして、食べて、それでも行きたいなら君は行け」
「お前は?」
「ここに、刈ったばかりの兵が一列いる。濡らすわけにはいかん」
軍の鐘がまた遠くで鳴った。
だが修道院跡では、木匙が椀へ触れる小さな音のほうが近かった。
ラグンは命令書を開かず、雨から守った最初の収穫を、ゆっくり噛んだ。