閉鎖後に生まれた実験結果

国立研究所の成果審査で、研究員の葛城要は、データを捏造したとして発表資格を奪われかけていた。

「再現できない数値を並べ、画期的な触媒を発見したように見せた」

主任教授の最上景隆が、要の名で保存されたグラフを映す。

「若さゆえの功名心でしょう。私は何度も慎重にと忠告した」

最上は研究不正報告書へ署名し、要の解雇と論文撤回を求めた。

要は、グラフの作成日時を尋ねた。

「六月十四日、午後十一時五分だ」

「その日の研究室は、午後十時に閉鎖されました」

「君が無断で残った証拠だ」

最上はすぐ言い換える。

研究所の分析装置は、測定ごとに試料番号、操作者の静脈認証、室内温度を原データへ封じる。最上が助成金監査を通すため導入し、「本人以外の操作は不可能」と説明していた。

監査官が問題のグラフから原データを開く。

操作者は最上景隆。時刻は午後十一時五分。室内温度は二十九度で、本来なら冷房停止後の閉鎖室と一致する。

「葛城に認証を貸した!」

「静脈は貸せません」

さらに装置は、測定開始時に短い作業メモを録音していた。

『失敗値を要の名で保存する。あいつの本物の成果は、私の次の申請へ使う』

最上の声が響く。

彼は要を追放した後、触媒の特許を自分の名で申請するつもりだった。だが申請書にはすでに、問題のグラフを〈最上本人が作成した予備実験〉として添付し、電子署名までしていた。要を陥れる時だけ、同じデータの作成者名を書き換えたのだ。

要は発表者札を胸へ戻した。

研究所長が処分通知を開く。

要の本当の実験結果は、最上が失敗値へ差し替える前に共同サーバーへ自動保存されていた。再現試験もすでに成功している。監査官は要の論文を撤回するどころか、発表日を予定通り維持すると告げた。最上が奪おうとした成果は失われず、失われたのは彼が署名で飾ってきた信用だけだった。審査員席から、要の発表を待つという声が上がった。

「最上景隆。研究不正、成果窃取および部下への虚偽告発により、主任教授職を即時解任する」