闘技杯の青い封印

全国格闘大会の控室で、天城凛音の飲料ボトルから薬品臭がした。

王者の日下部豪は扉を塞ぎ、口元を歪める。

「飲め。倒れたら緊張で棄権したことにしてやる」

豪は練習相手を殴り、凛音のグローブを水に沈め、拒めば大会から追放すると脅してきた。今日は決勝前、筋弛緩剤まで用意したのだ。以前告発した練習生は、豪の支持者に囲まれて競技場を去った。

「飲まなければ、おまえが俺のボトルへ薬を入れたと告発する」

豪はそう言って、競技委員を呼ぶ。

「こいつが僕を毒殺しようとしました。薬瓶も鞄にある。被害届にも、もう署名しました」

凛音の鞄から筋弛緩剤が出る。豪は証拠保全書へ署名し、「発見時から触れていない」と断言した。

凛音は鞄に触れず、自分のボトルを競技台へ置く。昨日から大会委員へ相談し、私物を封印していたからだ。

蓋の青い封印が光り、開閉履歴を投影した。

『午前十時四分、日下部豪選手証。開封』

大会支給品はドーピング防止のため、触れた選手証を記録する。凛音の証票はその時間、計量室に預けられていた。

豪は笑う。

「ボトルを間違えただけだ。薬は天城が」

「薬瓶にも封印があります」

競技委員が瓶を読み取ると、購入者は豪の専属トレーナー、受領者は豪本人。しかも豪は保全書へ「触れていない」と署名した直後、指紋のついた瓶を証拠として提出している。

控室の鏡が試合配信へ切り替わった。そこには、豪が凛音へ飲めと迫る場面が無音で映っている。豪はスポンサー向け密着カメラを布で隠したつもりだったが、鏡の内側にも大会公式カメラがあった。

「王者を失格にしたら興行が潰れるぞ!」

豪が委員へ掴みかかる。その声も会場へ流れ、観客席が静まり返った。

凛音はボトルを飲まず、封をしたまま委員へ渡す。

リングアナウンサーが急きょ受け取った文書を開いた。

「日下部豪選手。選手への継続的暴行、薬物を用いた傷害未遂および虚偽告発により、選手資格を永久剥奪し、警察への身柄引き渡しを命じます」