雨を呼ぶ花嫁の陽雫タルト

菓子店〈晴れ間〉を訪れたプリムラの肩から、店内なのに雨が滴っていた。

彼女は感情が高ぶると雲を呼ぶ雨術師だ。明日は結婚式。嬉しいほど雨が強くなり、昨日の衣装合わせでは礼拝堂が水浸しになった。式を延期しようと告げると、周囲は「雨を止められない花嫁など縁起が悪い」と囁いた。

「喜ばなければ晴れるんです。だから明日は、何も感じないふりをします」

そう言う間も、窓の外では排水溝があふれていた。プリムラは式の招待状を濡らさないよう、胸元へ抱えている。楽しみにするほど雲が厚くなるため、花も衣装も見ないようにしてきた。待ち望んだ一日を守るために、その一日を喜べないというのが、いちばん苦しかった。

店主アーデルは窓の外の黒雲を見て、黄色い小さなタルトを一つ出した。檸檬の輪切りが太陽のように輝いている。

「陽雫タルトです。雨を止めるのではなく、降らせたい分を一滴へ集めます」

「一滴で済むのですか」

「我慢せず、嬉しいことを一つ思い浮かべて食べてください」

プリムラはタルトを口へ運んだ。さくりとした生地、鋭い檸檬の酸味、すぐあとから追いかける蜜の甘さ。明日の扉、並ぶ花、差し出される手を思い浮かべる。

肩の雨が一瞬激しくなった。天井近くまで雲が膨らむ。だが次の瞬間、すべての雫が右目へ集まり、金色の涙となって頬を一筋だけ流れた。

窓を叩いていた雨音が止んだ。

雲の切れ間から光が差し、濡れた卓上に小さな虹を作った。

プリムラは驚き、それから声を上げて笑った。笑っても雲は戻らない。

「明日、嬉しくてもいいんですね」

「嬉しい日に晴れた顔をするのは、縁起がいいと思います」

彼女は銀貨一枚の代わりに、式用の金貨を置いた。

「同じものを一つ、明日の朝に。式が終わったら、もう一つ。今度は雨の日に食べに来ます」

晴れた路地へ駆け出す背中から、水滴は一つも落ちなかった。

アーデルが窓を開けて湿った空気を入れ替えると、ちりん、と日差しの中でベルが鳴った。