雪だるまの左右
雪の日、クラスで人気の生徒と、いつも一人の生徒が居残りになった。
校庭の雪だるまを片づける当番だった。
人気者は冗談を言い続け、もう一人は返事をしない。
二人が雪だるまの左右の枝へ、それぞれ片方の手袋を掛けた瞬間、体が入れ替わった。
手袋を外すまで元へ戻れない。
一人の生徒は、人気者の体で教室へ戻った。
皆が話しかける。
笑わせて。
次は何する。
機嫌が悪いと、
「今日つまらない」
と言われる。
スマートフォンには、家族から成績や部活動の結果を尋ねる連絡が並んでいた。
人気者は楽しい人でいなければ、価値がなくなると思っていた。
人気者は、静かな生徒の体で廊下を歩いた。
同級生の会話が自分の前で途切れる。
机には消えかけた落書き。
教師は、
「もっと自分から輪へ入って」
と言う。
輪が閉じる瞬間を、外側にいる人の努力不足と呼ばれていた。
放課後、二人は雪だるまの前へ戻った。
「笑ってる方が楽だと思ってた」
静かな生徒が、人気者の口で言った。
「何も言わなくていい方が楽だと思ってた」
人気者も返した。
すぐ手袋を外せば終わる。
だが二人は、雪だるまが少し傾くまで話した。
静かな生徒は、話しかけられるのが嫌なのではなく、からかわれる形でしか注目されないのが嫌だった。
人気者は、一人になりたい日にも誰かを笑わせる役を降りられなかった。
教室へ戻り、入れ替わったまま一つずつ試した。
人気者の体の静かな生徒は、
「今日は面白いこと言わない」
と宣言した。
友人たちは戸惑い、二人だけが隣に残った。
静かな生徒の体の人気者は、机の落書きを教師へ見せた。
「輪へ入れ、の前にこれを見て」
教師は初めて、落書きを記録した。
夕方、二人で手袋を外し、元へ戻った。
翌日から親友になったわけではない。
人気者は相変わらずよく笑わせ、静かな生徒は一人で本を読む。
ただ昼休み、人気者が疲れた日は、静かな生徒の隣へ無言で座った。
静かな生徒が発言したい日は、人気者が話題を奪わず待った。
雪だるまは数日で溶けた。
左右の枝だけが校庭に残った。
違う役を背負った二人が、同じ雪から作られていたことを知るには、それで十分だった。