青いチェックは見ない

月曜の午後八時十五分、果歩は蘭からのメッセージを読み返していた。

〈久しぶり。突然だけど、先週結婚しました〉

その下に、二人の手元だけを写した写真がある。

蘭とは以前、週に三度は連絡を取っていた。仕事の愚痴、買った服、眠れない夜。けれど果歩が部署を移り、蘭も忙しくなり、やり取りは少しずつ減った。最後に会ったのは一年前だ。そのとき二人で飲んだ紅茶の店も、先月閉店した。知らせようと思って、結局送らなかった。

果歩は十分考えてから、〈おめでとう。知らせてくれてうれしい〉と送った。

青いチェックはつかなかった。

夕飯の麻婆豆腐は、容器の隅に赤い油を固めていた。果歩は一口食べては画面を見た。午後八時二十二分。八時三十一分。返信はなくても、せめて読まれた印がつけば、自分の言葉が冷たすぎなかったと確認できる気がした。

〈びっくりした!〉を足そうか。

〈幸せになってね〉は距離があるだろうか。

〈今度会おう〉と書いて、本当に日程を決められるだろうか。

入力しては消すうちに、麻婆豆腐は完全に冷めた。

蘭は結婚した。たぶん今日は何人にも報告し、家族と食事をし、返信を一つずつ返している。果歩の一文にすぐ反応しないことは、二人の年月への答えではない。

それでも、昔なら最初に知らせてくれたかもしれない、という寂しさは残った。

果歩はその寂しさを、追加のメッセージで埋めないことにした。伝えたいことはもう送った。あとは蘭の時間だ。

スマートフォンを机の引き出しへ入れる。通知音は聞こえるよう、少しだけ隙間を残そうとして、やめて最後まで閉めた。

冷めた麻婆豆腐を電子レンジへ入れ、待っている間に顔を洗った。鏡の中の自分は、祝福に失敗した人の顔ではなく、ただ月曜を終えかけている顔だった。

加熱終了の音が鳴る。果歩は湯気の戻った容器をテーブルへ置いた。

青いチェックがつくまで見張らなくても、送った言葉は消えない。今夜は返信のない余白ごと置いておく。

引き出しは開けず、温かいうちに一口食べた。