靴箱のミモザ

白妙沙月のダンスシューズが消えた翌週から、靴箱にミモザが届くようになった。

毎週月曜、小さな黄色い房が一本。名札も謝罪文もない。シューズがなければ稽古に出られず、沙月は大事な代役選考を欠席していた。花を見ても、優しい気持ちにはなれなかった。黄色が明るいほど、怒りの置き場所に困った。

選ばれたのは旧友の島津だった。祝福したいのに、靴を隠した誰かと島津が同じ側にいるように見えてしまい、連絡を返せなかった。ミモザが増えるほど、謝るべき人まで自分を待っている気がした。

候補は、選考を担当した振付師の橘川、衣装係の宝生、同じ役を争っていた旧友の島津。三人ともシューズが消えた日、最後までスタジオにいた。

花の包みには、黄色い仕立て用チョークの粉がついていた。茎を束ねる糸は、沙月の舞台衣装の裾と同じ銀糸。そしてミモザが置かれるのは、宝生が初心者クラスの衣装修繕に来る月曜だった。

沙月は次の月曜、衣装部屋の扉を開けた。宝生は作業机に、見覚えのあるシューズを置いていた。底革は新しく張り替えられ、かかとの縫い目も補強されている。

選考前夜、宝生はシューズの底が半分剥がれていることに気づいた。そのまま踊れば転倒する。沙月を捜したが電話がつながらず、無断で持ち帰った。修理が間に合わず、結果として選考を欠席させた。

「守ろうとしたなんて、言い訳にしかならない。怒ってるあなたに、怖くて話せなかった」

宝生は毎週、修理の進み具合を知らせるつもりでミモザを置いた。同時に橘川へ事情を説明し、再選考も頼んでいた。

沙月は戻った靴を履いた。足を踏み込むと、以前より床が近く感じられた。

「親切でも、黙って持っていったら盗難です」

「うん。ごめんなさい」

「でも、壊れてるって言ってくれた人は、宝生さんだけだった」

再選考はその日の夕方に決まった。踊り終えた沙月へ、宝生がスポーツドリンクを渡す。沙月は一口飲み、黄色い花を靴箱から出した。

「次は、花じゃなくて電話をください」