預かった鍵の使い道

奈緒は、葉月の部屋をいつも褒める。

「一人でここまで整えて偉いね」と言いながら、曲がった額を直し、冷蔵庫の期限切れを捨て、洗面台の化粧品を背の順に並べる。旅行中に植物へ水をやってもらうため鍵を渡してから、部屋は帰宅するたび少しだけきれいになった。

葉月は、自分が散らかしたのだと思っていた。

ただ、二つ妙なことがあった。奈緒は訪ねてくる前に、葉月がまだ帰宅していないと知っていた。もう一つ、なくしたと思った下着や手紙が、数日後には目立つ場所へ置かれていた。奈緒は「疲れると視野が狭くなるよ」と笑った。

彼女は葉月の生活を心配していた。新しい恋人を連れてくると、翌日には洗面所の髪の毛を見つけ、「掃除できない男はやめなよ」と忠告した。母親から届いた封筒を開けたことも、家族のことなら放置しないほうがいいと思ったからだという。

「葉月は一人だと、悪いものを溜め込むから」

その言葉に反論できなかった。奈緒の部屋はいつも完璧で、仕事も恋愛も順調に見えた。

ある夜、葉月は玄関へ小さなカメラを置いた。空き巣を疑ったのではない。自分が本当に物を動かしているのか確かめたかった。

映像には、奈緒が合鍵で入る姿が映っていた。

彼女は冷蔵庫から新品の食品を取り出し、賞味期限のシールを古い日付へ貼り替えた。引き出しの下着を隠し、母親の手紙を読み、恋人の歯ブラシを排水口へこすりつけた。最後に部屋全体を撮影し、自分の部屋の写真と並べて友人たちへ送った。

〈葉月、またひどくなってる。私が見てないと生活できない〉

葉月が映像を見せると、奈緒はしばらく黙り、それから泣いた。葉月が自分より幸せそうになるのが怖かったという。世話をしている間だけ、自分が上だと安心できた。

鍵を返させ、鍵穴も替えた。奈緒との連絡を断ったあと、部屋は少しずつ散らかった。けれど、物が移動することはなくなった。

一か月後、共通の友人が引っ越した。

SNSの写真で、奈緒は観葉植物を抱え、その友人から鍵を受け取っていた。

奈緒のキーケースには、葉月の古い鍵と同じ形の空白が、もう一つ増えていた。