飲み方を言い直す母

柚葉が施療院の臨時通訳に入った午後、獣人の母親が高熱の子を抱いて駆け込んだ。

医師は薬瓶を渡し、王国語で言った。子どもの呼吸は浅く、次の投薬を誤れば夜を越せないと診察票に記されている。

「一日二回、一回五滴」

柚葉は獣人語へ正確に訳した。母親は何度も頷き、瓶を握り締める。ここで以前の通訳なら終わっていた。母親の返事は明瞭で、単語にも文法にも誤りはないように見えた。

だが前世で医療通訳をしていた柚葉は、説明を理解したかとは尋ねなかった。人は分からなくても「はい」と答える。柚葉が確かめたのは理解したかではなく、これから何をするかだった。

「家へ帰ったら、どう飲ませますか」

母親に自分の言葉で言い直してもらった。

「太陽が出ている間に、五滴ずつ二回。夜にも同じだけ二回」

一日四回になっていた。獣人語の「日」は、昼間だけを指す場合があるのだ。正確な単語を使っても、意味は届いていなかった。

柚葉は砂時計を二つ描き、朝に五滴、夜に五滴と訳し直す。母親はもう一度説明した。

「朝、五滴。夜、五滴。全部で十滴」

今度は合っている。

医師が顔色を変え、待合室の十九人にも同じ確認をした。塗り薬を飲むと思っていた者が二人。三日分を一日で使うと思っていた者が四人。食前と食後を逆にした者が三人。全員、その場で直せた。医師が説明を繰り返す必要はなく、患者自身の言い直しが間違った場所だけを示した。

翌朝、獣人の子は熱が三十九度八分から三十七度二分へ下がり、自分の足で施療院へ来た。母親は空になっていない薬瓶を見せる。減った量はちょうど十滴だった。子どもは受付の木馬を押し、母親が追いかけるほど元気を取り戻している。

院長は前月の記録を開く。異種族患者の再診百人中、誤用は二十七件。柚葉が確認した一日では、二十人中ゼロ。

古参通訳が「私の訳語も間違っていない」と言う。

院長は頷いた。

「そうだ。間違っていない言葉で、二十七人が間違えた」

彼は全診察票へ『患者に言い直してもらう』欄を加え、柚葉へ施療院の銀章を渡した。

「医療通訳主任として採用する。頷きではなく、届いた意味を確かめてくれ」