黄金仮面を外した獅子猫
王都闘技祭の目玉は、黄金仮面をつけた獅子猫だった。
神獣の血を引く猫型魔獣を剣士たちが倒す余興だ。観客は歓声を上げたが、檻から出た獅子猫はまっすぐ走れず、壁へ何度も肩をぶつけた。
武具係の小夜は、剣ではなく仮面を見た。
目穴の位置が合っていない。成長した顔に幼獣用の仮面を無理に締め、視界をほとんど塞いでいる。さらに内側の装飾針が頬へ刺さり、金の縁から血が滴っていた。
「暴れているんじゃない。何も見えていないんです!」
主催者は「恐怖こそ見世物だ」と笑い、第一の剣士を送り出した。
小夜は闘技場へ飛び降りた。剣士の突きを盾で受け、武器を砂へ投げる。
「近づくな、食われるぞ」と観客が叫ぶ。
小夜は獅子猫の死角から声をかけ続けた。
「右に三歩。そこで止まって。私は正面にいる」
猫は唸りながらも声を追う。鼻先が小夜の胸へ触れたところで、彼女は両手を仮面の留め具へ伸ばした。
革帯は汗と血で固まっている。短刀なら早いが、顔を傷つける。小夜は武具油を染み込ませ、一本ずつ結び目をほぐした。
最後の帯が切れ、黄金仮面が砂へ落ちる。
獅子猫は眩しさに目を閉じた。小夜が体で日差しを遮ると、ゆっくり瞼を開く。琥珀色の瞳が初めて闘技場を見渡した。そこに敵しかいないと思ったのか、獅子猫の体が震える。小夜は血で濡れた頬を拭き、『もう合図に従わなくていい』と、最初に見えた人間として告げた。
主催者が捕獲命令を出す。
獅子猫は吠えず、小夜の前へ座った。額の王冠模様が光り、彼女の額にも小さな金印が浮かぶ。王家の神獣が自ら契約者を選んだ証に、国王は立ち上がり、闘技祭の廃止と主催者の拘束を命じた。剣士たちは次々と武器を置き、観客席からは勝敗ではなく、解放を祝う拍手が降った。
歓声が別の意味へ変わる中、獅子猫は砂の上へごろりと寝転び、腹をさらした。小夜が膝をつくと、たてがみごと頭を腿へ押しつける。
黄金の毛は見世物の飾りよりずっと素朴で、指先へふわふわ絡んだ。首を支える重さは大盾以上なのに、頬へ昇る体温は、ようやく差した日の光のようにやさしかった。