『返却済みの端末』

中途採用の面接で、応募者は最後の質問を受ける前に不採用を告げられた。

面接官である総務部長は、古い事故報告書を机へ置いた。

「三年前、派遣社員として当社にいたとき、端末を返却せず退職した。再び雇うことはできません」

応募者は返却したと答えた。受領したのは、すでに退職した派遣管理担当者だった。

「その人は記録を残していない」

総務部長は面接を終えようとしたが、同席した採用担当が共有フォルダを開いた。

「退職者の引継ぎに、『返却済みを未返却にしないでください.csv』があります」

一覧には端末番号、返却日、受領者が記録されていた。応募者の端末は退職日の午後四時二十二分に返却済み。受付カウンターの読み取り記録も一致していた。

総務部長は「一覧への入力ミスだ」と言った。

採用担当は端末の利用履歴を表示した。返却翌日から二か月間、端末は総務部長室で使われている。最初の起動者も総務部長だった。

「調査のため保管した」

その期間、端末から人材会社へ応募者の悪評を送るメールが三通作られていた。送信者名は退職した派遣管理担当者。だが同担当者はすでに会社を去っている。

総務部長は、古いアカウントが残っていたのだろうと言った。

「誰かが勝手に使った」

メール送信時刻の会議室予約を見ると、総務部長は毎回「機密面談」として自室を予約し、入室記録も一人分だけだった。さらにメールのCCには、総務部長の私用アドレスが入っている。

応募者が尋ねた。

「なぜ、私を三年間も未返却者にしておいたんですか」

退職者のファイル末尾に理由があった。応募者は派遣時代、総務部長が備品を架空購入していることに気づき、管理担当者へ相談していた。部長は端末紛失の責任を二人へ負わせ、管理担当者を退職へ追い込み、応募者を業界の採用対象から外していた。

総務部長は報告書を閉じようとした。

採用担当が先に不採用欄を消した。

「選考を継続します。職歴照会の不利益情報も無効です」

役員面接への案内が応募者の画面へ届く。

続いて総務部長の端末に、監査室から通知が出た。

――面接官権限を停止しました。

返却済みだった端末が、三年遅れで持ち主ではなく犯人を示した。