お迎えの名札
築山家の親族会議は、凛緒のいないところで終わっていた。
義母の総子が要介護になり、長男の景継と長女の初恵は、次男の妻である凛緒が同居介護をすると決めた。夫の路久は反対したが、二人は聞かなかった。
「嫁はそのためにいるの」
総子自身も言った。
結婚以来、凛緒を法事の席から外し、家の鍵も渡さなかった人の言葉だった。
決定を伝えるために集まった日、景継は荷物の一覧を読み上げた。
「凛緒さん夫婦の家へ母さんを移す。昼は凛緒さん、夜は路久」
初恵は費用表から施設の項目を消した。
「他人に払うお金があるなら、家族で看ればいいでしょう」
凛緒は一言だけ答えた。
「お断りします」
景継が笑う。
「路久が次男でも、あなたは嫁だ。拒否できる立場じゃない」
今度は路久が、土地の権利証を机へ置いた。父の死後、兄妹三人が相続した駐車場の持分だった。路久は自分の持分を売り、総子の施設入居一時金に充てる契約を済ませている。凛緒の介護を前提にした計画には、最初から同意していなかった。
初恵が立ち上がる。
「共有地を勝手に売ったら値打ちが下がるじゃない!」
「凛緒の人生を使って、土地の値打ちを守る気はない」
路久は答えた。
総子は息子ではなく凛緒をにらんだ。
「あなたが余計なことを吹き込んだのね」
凛緒は携帯の音声を再生した。
『嫁は築山家の人間ではない。家のことに口を出すな』
総子が、凛緒に鍵を求められた日に残した言葉だった。
「その線を越えないだけです」
外で車の音がした。介護施設の送迎車だった。景継たちは、凛緒が折れて手配したのだと思い、荷物を押しつけようとする。
運転手は名札を確認し、総子へ車椅子を寄せた。
「本日からご入居ですね。ご家族代表の方は――」
凛緒ではなく、契約書に署名した路久の前で止まる。
端末には《主介護者なし・施設入居確定》と、赤く表示されていた。