みんなの火を灯す日

領主館には、二十人が泳げるほど大きな浴槽があった。

けれど麓の村では、冬に湯を使える家は三軒だけ。新領主アデルが館へ入った日、前領主の浴室では誰もいない湯が一日中沸き続けていた。

彼女は大理石を壊さなかった。浴槽を村へ運び、古い穀物庫へ据えると宣言した。

燃料負担は一世帯一束ではない。宿屋と工房は竈の数に応じて三束、二束。一般家庭は一束。薪を買う余裕のない家は、掃除一刻か湯番半日で一束分。独居の高齢者、病人のいる家、火事で家を失った者は冬の間免除する。

「領主館の薪で賄えばよい」と村人は言った。

「今年だけならできます。でも私が替わっても続く浴場にしたい」

アデルは、集めた薪の本数、入浴者数、修繕積立、免除世帯数を四つの柱に毎週刻むと決めた。免除者の名前は出さない。数だけを示し、誰が困っているかを見世物にしない。

館の執事は、領主専用時間を一刻設けるよう求めた。

「ありません。私も木札を取ります」

その言葉を聞き、村人たちは大理石を運ぶ荷車へ自分から縄を掛けた。宿屋は三束より多く出し、陶工は湯口を焼き、寡婦たちは古い領主旗を切って暖簾に縫い直した。命令で集めれば一日で終わる作業が、相談しながら十日かかった。だが完成したとき、誰も「領主の浴場」とは呼ばなかった。

最初の夜、アデルは十九番の木札を持って列に立った。先頭の炭焼きが遠慮して譲ろうとしたが、彼女は笑って首を振る。

扉が開き、館から運ばれた大理石の浴槽へ、村の湯が満ちていた。子どもが青い暖簾を掲げる。元は金糸の紋章だった布に、白い糸で新しい文字が縫われている。

――みんなの火で、みんなの湯を。

浴場の四本の柱には、最初の週の数字が刻まれた。薪百四十七束、入浴者二百三人、修繕積立十二枚、免除九世帯。免除の名を尋ねる者はいなかった。誰かが困る冬は、自分にも来ると皆が知っていたからだ。十九番を待つアデルの隣で、館の執事も二十番札を握っていた。彼は専用時間の代わりに、翌朝の湯番へ自分の名を書いていた。

炉へ最初の薪が一本落ちた。続いて二本、三本。誰の束だったか分からない炎が、一つになって明るく燃え上がった。