グラウンドに夜が降りる前に
最後の大会が終わった日、部員全員で学校のグラウンドへ戻った。
勝てば翌週も使うはずだった場所。負けたので、今日が三年生最後の練習になった。
監督は「自由にしていい」と言った。
誰も何をすればいいか分からなかった。
ボールを蹴る者、ベンチに座る者、写真を撮る者。マネージャーの私は、いつものように保冷箱を開けた。冷たいタオルが人数分並んでいる。
「もう配らなくていいよ」
主将が言った。
「作ったから」
「使わなかったら?」
「持って帰る」
それでも私は一人ずつへ渡した。負けた直後より、今のほうがみんな汗をかいていない。タオルは必要ではなかった。
最後に一本余った。
「マネージャーの分」
誰かが言った。
「私は動いてない」
「三年間動いた」
首へかけられると、冷たさで肩がすくんだ。みんなが笑った。
夕日がゴールの向こうへ沈み始めた。
「最後に試合しよう」
主将の提案で、三年生対一、二年生に分かれた。監督も入った。私は審判を頼まれたが、断った。
「今日は出る」
三年間で初めて、マネージャー全員がコートへ入った。
ルールは適当だった。オフサイドなし、交代自由、笑ったら相手ボール。私はボールに触れるたび転び、冷たいタオルは途中で落ちた。
最後の一点を決めたのは、一年のマネージャーだった。偶然足に当たり、ゆっくりゴールへ転がった。
全員が歓声を上げた。
「今の誰の点?」
「マネージャー」
「名前は?」
彼女は自分の名前を大声で叫んだ。
公式戦では一度も呼ばれない名前だった。
暗くなり、ボールが見えなくなった。監督が笛を吹いた。
誰もすぐには動かなかった。
最後の大会は昼に終わった。でも、私たちの部活が終わったのは、グラウンドに夜が降りたこの瞬間だった。
主将が落ちたタオルを拾い、土を払って私へ返した。
「冷たくない」
「時間たったから」
「じゃあ終わりだな」
私は首へかけ直した。ぬるくなった布には、土と芝の匂いがついていた。
「終わっても、捨てないよ」
主将はうなずいた。
倉庫を閉め、全員で校門へ向かった。誰かが後ろを振り返ったので、つられて全員が振り返った。
夜のグラウンドには、白線だけが薄く残っていた。
冷たいタオルの温度は消えても、あの夕暮れに呼ばれた名前と歓声は、ずっと消えなかった。