ゲームマスターは母です

三人きょうだいが実家へ呼び戻されると、玄関に母からの紙が貼られていた。

〈最後まで家に残った者へ、この家を譲ります。途中で外へ出た者は脱落〉

直後、玄関の電子錠が閉まった。

長兄が紙を読み直す。

「相続デスゲームだ」

次姉は窓を確認する。

「母さん、私たちを競わせる気ね」

末弟は冷蔵庫を開けた。

「食料は一日分」

「長期戦を想定していない」

「短時間で一人に減らす設計?」

「家族会議の言葉じゃない」

三人は互いの動きを警戒し始めた。

「さっき水を三本確保したね」

「平等に配るため」

「先に管理権を取る人間が一番危険」

「あなたはトイレの鍵を確認してた」

「閉じ込め対策」

「閉じ込める発想がある証拠!」

母へ電話しても出ない。

代わりに居間のスピーカーから録音が流れる。

『各自、自分の部屋から不要な物を出してください。最後まで残った人が勝ちです』

次姉が青ざめる。

「“不要な物”に人間を含める?」

末弟が答える。

「母さんなら、まず長兄の漫画を選ぶ」

「人間より先に本棚が死ぬのか」

片付けは心理戦になった。

長兄が古い写真を捨てようとすると、

「家族の記憶を消し、相続の証拠を減らす気」

次姉が服を袋へ入れると、

「逃亡準備」

末弟がゲーム機を箱へ戻すと、

「武器を隠した」

「ゲーム機を何に使うんだ」

「長期戦の娯楽を独占する」

三時間後、三人とも疲れ果てた。

末弟が耐えきれず玄関の解錠ボタンを押す。扉は普通に開いた。

「閉じ込められてなかった?」

「電子錠は内側から開くでしょ」

外には母と引越業者が立っていた。

「まだ終わってないの? 今日中に家を空にするのよ」

三人が同時に尋ねる。

「家を譲るって?」

母は小さな木製の人形の家を持ち上げた。

「あなたたちが子どものころ遊んだドールハウス。最後まで片付けを手伝った人に譲ると言ったの」

本物の実家は、先月すでに売却契約済みだった。

ゲームマスターが母だったのではない。

説明書を読まなかった参加者が、いつまでも子どもの三人だった。