一隻ごとの本当の修理代
港の造船所は、軍船を直すたび赤字になった。
船の大きさに関係なく、一隻金貨九百枚で請け負っていたからだ。今度来たのは、竜の爪で船腹を裂かれた大型艦。親方はいつもの九百枚で受けようとした。
「前回も九百で赤字だった。数を増やせば取り戻せる」
造船所は前の三隻で金貨八百枚を失い、職人の給金を二月遅らせていた。親方は赤字を取り戻すため、さらに多く受注するしかないと思い込む。だが同じ九百枚で損する船を十隻受ければ、造船所は十倍速く沈むだけだった。
紅葉は職人を監視せず、材料と時間へ船名を付けた。鉄木一本が大型艦へ運ばれればその札を箱へ、船大工が一刻働けば作業板へ一本線。誰の腕が悪いかではなく、この傷を直すために何が何枚必要かだけを集める。三日後、山積みの札は千四百という一つの数字になった。親方が過去の九百枚札と並べると、赤字の穴五百枚が目に見える幅で開いた。
紅葉は前世で個別原価計算をしていた。倉庫から出す材料に船名を書いた札を付け、職人の作業板にも同じ船名を刻む。
三日で見積もりが揃った。
鉄木、金貨六百二十枚。釘と金具、百四十枚。防水樹脂、百六十枚。職人延べ二百十時間、四百二十枚。船台使用、六十枚。
合計、千四百枚。
九百枚で受ければ、五百枚の損失だった。
親方は軍を怒らせれば仕事がなくなると震えた。紅葉は利益一割を加え、金貨千五百四十枚の見積書を海軍提督へ出す。
「高い」と提督は眉を吊り上げた。
紅葉は材料札と時間板を順に置く。どの金貨が、船のどの傷へ使われるか一目で分かる。水増しできる空白は一つもない。
提督は競合造船所の見積書を開いた。金貨千七百枚、内訳なし、納期二十日。紅葉の見積もりは千五百四十枚、納期十二日。
大型艦の契約へ海軍印が押された。
さらに提督は、後ろに並ぶ損傷艦九隻を指す。
「すべて一隻ずつ見積もれ。同じ方式なら十隻まとめて任せる」
親方は九百枚の古い料金板を叩き割り、紅葉へ造船所の原価帳を差し出した。