三人とも娘を降りる

母は三人の娘を食卓へ集め、施設のパンフレットを裏返した。

「娘が三人もいるのに、こんなところへ入るなんて」

長女の久々里の前には、母が作った当番表が置かれていた。久々里は平日の朝、次女は夜、三女は週末。仕事も家も違う三人が、まるで隣室に住んでいるような線の引き方だった。

三人のうち誰かが無理だと言うと、母は別の娘へその分を足した。断った一人と引き受けた一人の間に小さな棘が残り、母だけが「姉妹で助け合って」と言った。今日、三人は初めて同じ側の席に並んだ。

母は久々里を「いちばん上」と呼ぶ。

「あなたが二人をまとめて」

久々里は当番表を手に取った。妹たちを見ると、二人とも目を伏せている。以前なら、久々里が空欄を埋め、妹の不満を聞き、母には「大丈夫」と伝えた。

今日は紙を中央へ戻した。

「この当番ではやらない」

母が息をのむ。三女が続けた。「私も週末全部は無理」。次女も「夜勤のあとに毎晩は来られない」と言った。

「じゃあ誰が私を見るの」

久々里は裏返されたパンフレットを表へ戻した。見学した住宅型施設の食堂、個室、庭の写真が並ぶ。

「私たちは娘として会いに行く。毎日の介護は、家族だけで回さない」

母は「見捨てるのね」と言った。

久々里はその言葉を急いで否定しなかった。三人とも、否定するために約束を増やしてきた。

「入居を決めるのはお母さん。でも、三人が交代で仕事を辞める案には同意しない。自宅を選ぶなら、使えるサービスの範囲で考える」

次女が費用表を開き、三女が見学予約の番号を入力した。久々里は母の希望を尋ねる。

母は長い間黙り、「庭が見える部屋なら」と言った。

食事のあと、三人は当番表を破らず、裏に見学の日付と質問を書く。久々里の欄は〈送迎〉、次女は〈費用確認〉、三女は〈家具採寸〉。毎日の娘役ではなく、一度ずつの用事になった。

帰り際、母が「いちばん上」と呼びかけ、言い直した。

「久々里、庭も一緒に見て」

「うん。その日は行く」

三人は娘をやめたのではない。介護要員として並べられた娘の席から、同時に立ったのだ。

食卓には破られなかった紙が一枚残り、母はその裏の見学日を指でなぞっていた。