三号車の乗車口
夕方の特急が入線する四分前、島崎蒼はホームの介助予定表に、存在しない車両番号を見つけた。
車椅子を利用する乗客の席は三号車。ところが後輩が準備した渡り板は五号車の停止位置に置かれている。今日だけ編成が短くなり、五号車は連結されていない。乗客は通院帰りで、乗り換え時間は六分しかなかった。
後輩は「列車が止まってから運べば間に合います」と板を持ち上げた。だが夕方のホームは混み、列車到着後に人の流れを逆らって二両分移動すれば、乗車そのものが遅れる。指令は定刻優先を求めていた。
蒼は介助位置を三号車へ変更し、ホーム放送で待機列を一度組み直した。別の係員を乗客のもとへ向かわせ、自分は渡り板を運ぶ。列車には到着前に、三号車の扉を長めに扱うよう連絡した。
「編成表を昨日のまま印刷しました」
後輩は板の反対側を持ちながら言った。
「昨日の紙を使ったことより、変更が介助予定へ自動で届かないことが問題。今は三号車まで一緒に運ぼう」
列車が入ると、乗客は待っていた位置からそのまま乗れた。乗務員へ引き継ぎ、乗換駅にも到着時刻と介助位置を送る。発車は三十秒遅れたが、次の列車への接続には間に合った。扉が閉まる前、乗客は「走らせてしまってすみません」と言った。蒼は「こちらの準備を直しただけです」と答えた。介助を受ける人が、職員の失敗まで自分の負担として謝る必要はない。後輩もその言葉を聞いていた。
蒼は事務室へ戻り、編成変更が入ると介助予定表を再発行しなければ確定できない仕組みに直した。紙には印刷時刻を大きく出し、当日の変更欄を二人で読み合わせる手順も加えた。
後輩は始末書を書こうとした。蒼は、個人の確認不足だけでなく、昨日の予定表が今朝も有効に見える運用を書かせた。
所長は蒼へ、介助業務から外れれば運行管理の昇格が早いと言った。蒼は少し考え、机に届いていた次週の担当表を開いた。
そこには、初めて一人で旅行するという別の乗客の介助依頼があった。
蒼は運行管理の申請を保留し、その仕事を自分の欄へ引き受けた。