世界に一人の初心者旗

終末竜が辺境へ降りた時、勇者たちは王都を守るため撤退した。

残された開拓村には、戦える者がいない。転生して一年になるアルマも、なぜか経験値を得られずレベル一のままだった。畑を耕しても、魔獣を追い払っても、表示は変わらない。勇者には「永遠の初心者」と笑われていた。

終末竜のレベルは九百九十九。吐息一つで村が地図から消える。

アルマが欲しかったのは、自分だけ強くなる剣ではない。老人も子どもも、今日まで作った家を守れる場所そのものだった。

視界の最下段で、今まで灰色だった欄が初めて点灯する。

《条件達成:レベル一のまま百人の生活を支えた者》

《主人公専用排出枠〈初心者〉を解放》

《生涯一回。あなたが始めたものを守る品を排出します》

引くと、ほつれた白い旗が出た。

《初心者の旗》

《立てた場所を“最初の一歩”として登録する》

村人たちは意味を理解できなかった。終末竜が口を開き、空が赤く染まる。

アルマは畑の中央へ旗を突き立てた。

軽い鐘が鳴る。村全体に半透明の案内枠が現れた。

《チュートリアル区域へようこそ》

《区域内では、すべての存在が初期条件から開始します》

終末竜の巨大な角が縮み、鱗が柔らかくなる。レベル表示は九百九十九から一へ。灼熱の吐息は、焚き火を揺らす温風に変わった。

一方、村人には初心者用の保護が付く。最初の攻撃は無効、最初の失敗はやり直し、最初の空腹には保存食が支給される。鍛冶屋の老人が木槌で竜の爪を叩き、子どもたちが投石で翼を地面へ縫い止めた。

アルマは農具の鋤を構え、竜の鼻先を軽く押す。

「ここでは、誰だって一からだ」

転んだ終末竜は降参を示すよう腹を見せた。倒す必要すらない。初心者区域では、初めて敗れた敵にもやり直しの選択肢がある。竜は村を焼く代わりに、翼で用水路へ風を送る仕事を選んだ。

遅れて戻った勇者たちは、畑を耕す終末竜を見て言葉を失う。

「アルマ、王都にもその旗を――」

「これは、俺たちが始めた村を守る旗です」

彼は村人と竜を振り返る。誰も彼を初心者と笑っていなかった。

ほつれた白布が天まで広がり、世界全域へ最後の通知が響く。

《創世級・主人公専用〈第一歩の旗〉》

《世界初攻略:終末災害を仲間へ転換》

《レベル一のアルマが、世界の上限を更新しました》