世界の端に立てた初心者旗

世界が崩れる音を、アステルは三日間聞き続けていた。

空は割れ、地面は黒い亀裂へ沈み、最後に残った百人の避難民は大陸の端まで追い詰められた。背後から虚無獣が迫る。前には底のない空白しかない。

勇者たちの神器はすべて壊れた。魔法使いの魔力も尽きた。

「ここまでだ」

誰かが言った。

荷運び役のアステルには、転生初日に与えられた《初心者限定・初回十連》が残っていた。仲間からは、低級品しか出ない初心者用だと笑われ、使う機会を失っていたものだ。

今、必要なのは敵を倒す剣ではない。

百人が立てる、崩れない地面だ。

アステルは十連を一度だけ回した。

小回復薬、木の短剣、干し肉など九品。最後に、白布を棒へ結んだだけの小さな旗が出る。

《初心者旗/説明:ここを最初の一歩と定めます》

アステルは大陸の端へ旗を突き立てた。

白布が風を受ける。

旗の周囲一歩分だけ、亀裂が閉じた。次に二歩、三歩。土が生まれ、草が芽吹き、百人が入れる円形の地面が広がっていく。虚無獣が踏み込もうとすると、見えない境界に弾かれた。

「中へ!」

アステルは自分が最後に入った。

安全圏は城ほど広くない。家も畑も、これから作らなければならない。それでも地面は温かく、井戸を掘れそうな湿り気があり、旗の根元では小さな火が自然に灯った。

誰かが鍋を出した。誰かが怪我人を寝かせ、誰かが外周へ石を並べる。勇者は折れた剣を鋤に直すと言い、魔法使いは雨水をためる穴を掘り始めた。

命令した者はいない。

アステルが干し肉を百等分しようとしたとき、空に初めて新しい文字が現れた。

安全圏の入口には、避難民の少女が拾った板を立てた。『ここから先は、入った順ではなく、困っている順に食べる』。王も兵士も異論を唱えず、最初の温かい椀は乳児を抱く母へ渡った。かつての身分は崩壊した世界と一緒に終わった。白い旗の下で、新しい規則だけが静かに始まった。

《神話級〈世界創生の初心者旗〉――崩壊後世界における、最初の安全圏を確認》