世界の終わりを一枠に

王都最後の荷運び人ケルヴァンには、空き枠が一つしかなかった。

しかも自分の荷物は入れられず、誰かから正式に任された物だけが対象になる。

【固有スキル《責任収納》:使用者が運搬責任を負った対象を、規模・形状を問わず一枠へ格納する】

樽一個を預かれば他は持てない。返却まで枠は空かない。冒険者組合は彼を最低等級に固定し、王城では瓦礫運びにも使えないと笑われた。

終末の日、空に黒い穴が開いた。

魔王ではない。古代王国が世界の外へ捨て続けた魔力廃棄物が限界を超え、逆流してきたのだ。穴は雲、星、時間の順に呑み込み、触れた魔法をすべて無にする。

勇者の聖剣も賢者の結界も消えた。残り一刻で大地全体が収納される側になる。

国王は地下転移門へ逃げようとした。

門は一人しか通れない。責任を追及した民衆へ、王はケルヴァンを指さす。

「廃棄庫の鍵を運んだのはこいつだ! この終末は全部、荷運び人の責任だ!」

記録水晶が王の宣言を世界中へ伝えた。

廷臣たちは同意し、罪を一人へ押しつける文書に次々と署名する。ケルヴァンの身分板へ、終末処理責任者という役目が強制的に刻まれた。

彼は怒らなかった。

ただ空を見上げる。規模も形状も問わず、正式に任された対象なら入る。今、王国最高権力者と全閣僚が、世界の終わりそのものを彼の責任だと認めた。

ならばこれは、彼が運ぶべき荷物だ。

ケルヴァンは民衆へ背を向け、黒い穴へ片手を上げた。

「終末一件、確かにお預かりします」

責任収納を使ったのは、その一度だけだった。

空の穴が縁から折り畳まれる。

呑まれかけた星明かりも、逆流する廃棄魔力も、世界を終わらせる因果も、一件の荷物として最後の枠へ吸い込まれた。青空が戻り、朝の鐘が鳴る。転移門は終末と繋がっていたため消え、国王だけが逃げ場を失った。

身分板には王と閣僚の署名が残っている。

彼らが終末の責任を正式に譲渡した証拠だ。民衆が道を開けると、今度は騎士団が国王を囲んだ。

ケルヴァンの空き枠は永遠に埋まった。

その代わり、世界そのものが彼の保管庫として認められ、最後の職業欄が夜明けの空へ広がる。

【職業が《最下級荷運び人》から《世界庫皇》へ書き換わりました】