世界の終わりを鑑定する

空が割れ、海が逆さに落ち、すべての職業表示が赤い「終了」に変わった。

神々は天上から告げた。

『世界は寿命を迎えた。全員、静かに消滅せよ』

万象鑑定士アステルは、最後まで役立たずと呼ばれていた。剣も振れず、魔法も撃てず、ただ見るだけの職業だからだ。

【万象鑑定:世界に存在するあらゆる対象の本質を見抜く。対象の規模、形状、概念性を問わない】

勇者は空の亀裂へ聖剣を投げ、賢者は海を止めようとして消えた。誰も神の宣告そのものを疑わない。

アステルは逃げ惑う人々の中で立ち止まった。

「あらゆる対象」とある。ならば、世界の終わりも対象にできる。

彼は崩壊する空でも神でもなく、今起きている「世界の終わり」そのものを鑑定した。

本質――職業覚醒者を選別するため、管理神が起動した模擬災厄。

実被害――ゼロ。

終了条件――誰か一人が神の宣告を疑い、本質を見抜くこと。

「終わりではない。試験だ」

アステルが言うと、燃えていた町が一枚の書割のように止まった。逆さの海は青い光へ戻り、消えた勇者たちも元の場所へ落ちてくる。

天上の声が慌てた。

『鑑定結果を却下する。世界の管理者たる我が、終わりと定めたのだ』

「では、あなたも鑑定する」

雲の奥に隠れた神へ視線を向ける。

本質――職業神代理。権限期限、千年前に失効。覚醒者が出ないよう試験を偽装し、世界を何度も巻き戻していた不正管理者。

空から巨大な印章が落ち、神の額へ「失格」と刻まれた。

人々を見下ろしていた光の巨人は、小さな老人の姿になって地上へ転がる。神殿の扉が開き、本物の職業神たちが彼を連行した。

勇者が呆然と問う。

「世界の終わりまで、鑑定できるのか」

アステルは、元へ戻った青空を見上げた。

「終わると言われたからこそ、本当に終わりか確かめるんです」

巻き戻しで失われていた記憶も人々へ戻った。何度も同じ終末を経験し、そのたび諦めさせられていたのだ。アステルの鑑定記録は世界中の空へ残り、神の言葉であっても確かめてよいという最初の法になった。剣を振るう者も祈る者も、今度はただ命令を待たず、自分の目で本質を見るため顔を上げた。

世界中の職業表示が再起動し、最後に彼の欄だけが眩い白へ書き換わった。

【職業:万象鑑定士 → 全知万象鑑定神】