世界の綻びに最後の一針

辺境の繕い師ヴェナが王都へ着いたとき、空はすでに二つに裂けていた。

裂け目の向こうには何もない。星も闇もなく、触れた塔や鳥が音もなく消えていく。

大賢者たちは世界の寿命だと宣告し、選ばれた貴族だけを小さな異界へ移す準備をしていた。

「針子にできることはない。せめて転移者の礼服を直せ」

ヴェナは糸箱を取り上げられ、避難列の外へ押し出された。

彼女の技能は、村人の服なら何度でも救ってきた。

【固有スキル《完全繕い》:元の糸が一本でも残る限り、どれほど大きな綻びでも本来の形へ戻す】

裂け目が王城へ届く。

賢者たちは世界を修復しようとして失敗していた。創世の糸は神代に使い切られ、元の糸など一本も残っていないという。

異界門が開くが、貴族たちが殺到した重みで術式が崩れた。逃げ場を失った彼らは、今まで追い払っていたヴェナへ縋る。

彼女は答えず、消えかけた大地へ膝をついた。

村で服を繕うたび、不思議に思っていた。

羊毛も麻も絹も、世界から生まれたものだ。人の髪も、獣の毛も、木の繊維も同じ。創世の糸が本当に消えたなら、なぜ世界にはこれほど多くの糸が残っているのか。

元の糸とは、神が保管した特別な一本ではない。

創られたすべての命が、その続きなのだ。

ヴェナは自分の赤い髪を一本抜き、奪い返した針へ通した。

一本では足りない。

すると、彼女が直した服を着る辺境の避難民が髪を差し出した。兵士が軍服から糸を抜き、母親が産着の端をほどき、王都中の人々がそれぞれの一本を空へ掲げる。

無数の糸がヴェナの針穴で一筋の光になる。

彼女は裂けた空の両端へ針を通した。

一針で消えた塔が戻り、二針で海の向こうまで大地がつながる。最後の一針を結ぶと、世界を飲んでいた無は細い縫い目となり、朝焼けの中へ溶けた。

大賢者が奇跡の指揮者を名乗ろうとする。

だが空に残った巨大な縫い目は、糸を差し出した一人ひとりの名を光で記していた。最初に輝いたのは、避難列から排除された繕い師の名だった。

【職業《辺境繕い師》が上位職《世界綴神》へ書き換わりました】