世界創造に足りない一人
雑用係アーシャには、決まった仕事がなかった。
神殿で椅子を運び、勇者の靴紐を結び、魔術師が落とした触媒を拾う。誰かの手が足りない時だけ呼ばれ、終われば名前も忘れられる。職業欄に《雑用》と出た日、家族さえ「何にもなれなかった」と目を伏せた。
彼女の技能は、一日に一度しか使えない。
【職業技能《一人手》:誰かが行う作業一つについて、不足している一人分の手を補う。】
世界の終わりにも、アーシャは雑用をしていた。
魔王と勇者の最後の一撃で大地は割れ、海は空へ流れ、十二本ある世界柱の一本が消えた。創世神たちは天上から降り、残った十一本を支えたが、柱は十二人が同時に持たなければ組み直せない。
神が一柱足りない。
英雄たちは力を貸そうとした。勇者の腕力も、賢者の魔力も、作業に必要な“創世神一人分”には数えられない。世界は端から白くほどけ、町も人も音を失っていく。
大神が告げた。
「次の世界を作る時間はない。この世界はここで終わる」
人々が祈る中、アーシャは神々の足元へ散らばる工具を拾っていた。金槌を渡し、星釘を数え、転がった設計板を押さえる。いつもと同じように、作業する者が困らないよう動いた。
そして気づく。
足りないのは力ではない。
一人分の手だと、神自身が言った。
技能説明にも、人間一人分とは書いていない。
「作業名を教えてください」
大神は崩れる空を見上げた。
「世界を明日へ接続する、創世作業だ」
「不足人数は?」
「一柱。だが君には――」
アーシャは技能を使った。
小さな両手の上へ、星々でできた巨大な十二番目の手が重なる。失われた創世神一柱ぶんの手だ。それは空白の世界柱をつかみ、十一柱の神々と同時に持ち上げた。
十二本が円を描く。
割れた大地が閉じ、空の海が戻り、消えかけた人々へ色と声が戻る。東の端に、まだ作られていなかった明日の日付が浮かんだ。
大神が膝をつき、初めてアーシャの名を尋ねる。
彼女は最後の星釘を道具箱へ戻した。
「雑用係です。手が足りない時は呼んでください」
【職業《雑用係》が上位職《創世補佐神》へ書き換わりました。】