世界必中の神が狙いを外す

終末神キリオグが空を割ったとき、最後の村の前にエンノアが立った。

彼は剣も盾も持たず、背後の畑へ続く細道を塞ぐように両腕を下ろしている。村人たちは逃げず、遠くからその背中を見ていた。

「世界は今日で終わる。そこを退け、不死者」

「終わるのは、あなたの予定だけです」

神は最初に星の槍を落とした。国を一つ消す光がエンノアの頭上へ集まる。

彼は動かなかった。

星槍は地上へ届く寸前で二つに裂け、村の左右へ巨大な谷を作った。細道には砂粒一つ落ちていない。

キリオグは偶然という言葉を持たない。神の攻撃に誤差はないからだ。それでも彼は怒りを選び、世界法則《必中》を上書きした。

逃げる未来、耐える力、守る奇跡をすべて禁止し、「神が狙ったものには必ず届く」という結果だけを残す。二撃目は武器ではなく、逃れられない決定そのものだった。

白い光と煙が大地を呑み、空も音も一度消えた。

煙が晴れる。

エンノアは両腕を下ろした同じ姿勢で立っていた。背後の畑では風車が回り、村の夕食を知らせる煙が屋根から上がっている。

キリオグの視界に、消したはずの過去世界が次々に浮かんだ。海だけになった世界でも、凍った太陽の下でも、エンノアは最後の誰かの前に同じ姿勢で立っている。神が世界を終わらせるたび、彼だけが終末を外れ、次に守るべき暮らしへ歩いてきた。その積み重ねが、今や法則より古い。村人は勝利を叫ばず、鍋へ火を入れ、家畜を小屋へ戻した。終末に日常を続けることこそ、エンノアが何度も守ってきた反撃だった。

神が異常に気づいたのは、自ら刻んだ《必中》の文章が書き換わっていたからだ。

【神が狙ったものには必ず届く】

ただし、標的欄だけが空白になっている。

「なぜ、お前を世界が標的と認めない」

「私はこの世界が終わるたび、次の世界まで立っていました」

エンノアは神を見上げる。

「世界にとって私は、生き物ではなく続きです。終わりが続きへ当たることはありません」

背後で村の鐘が鳴る。終末の時刻を過ぎても、空は落ちなかった。

世界必中の神は初めて、自分から一歩退いた。