世界樹に捧げる花嫁の帰還先
世界樹を芽吹かせられなかった樹守ミオナは、枯死を止めるため樹神の花嫁として幹の中へ捧げられることになった。婚姻が済めば肉体は根へ溶け、二度と地上へ戻れない。
枝上の祭壇へ上る間、ミオナは誰にも振り返らなかった。春の儀式を失敗し、三つの村を飢えさせた。旅を共にした三人も、彼女を責めずにはいられないはずだ。最後に優しくされてから捨てられるくらいなら、一人で消えたかった。神官は山小屋の鍵まで回収し、「花嫁に帰宅は不要」と告げた。その言葉を聞いたとき、ミオナは三人の沈黙まで同意だと思い込んだ。
樹神の扉が開く直前、守護兵アスターが聖剣を根元へ突き立てた。
「預ける。抜くのは、おまえが戻ってきたときだ」
薬草師ホタルは祭壇脇の苔を払い、木の椅子を置いた。背にはミオナの外套が掛かっている。
「山小屋の食卓、隣が空いてる。芽が出なくても朝粥は出す」
空渡りグレンは枝の外へ帆船を係留し、三本の綱を別々の枝へ結んだ。
「風が止んでも、枝が折れても、一本は残る。乗るまで出ない」
神官たちが儀式を急がせる。だがアスターの剣が根へ触れた瞬間、世界樹の記憶が流れ込んだ。芽吹かなかったのはミオナの力不足ではない。神官団が樹液を売り、根を空洞にしていたからだった。
ホタルが薬を注ぎ、グレンが雲水を運ぶ。ミオナが残った魔力を一滴落とすと、幹の裂け目から新芽が一つ顔を出した。
神官団は捕らえられ、婚姻は不要になった。
歓声の中でも、ミオナは祭壇を降りられない。新芽は一つだけ。次の春に枯らせば、今度こそ三人の期待を裏切る。
「また芽吹かせられなかったら?」
アスターは剣を抜かない。ホタルは椅子へ湯気の立つ椀を置き、グレンは帆を畳んで長期停泊の錨まで下ろした。
「その春も、ここにいる」と三人が答えた。
ミオナは樹神の指輪を枝へ返し、誰の隣を選ぶでもなく木の椅子へ座った。剣の守る根元、朝粥の待つ山小屋、帆船の浮かぶ空。彼女の帰る場所は三方向から守られ、世界樹より先に、もう枯れない居場所を芽吹かせていた。