世界樹の下、四人分の鍵

世界樹の守護門を開けてしまったのは、番人エルドだった。

枯れ枝を落とすため、根の封印を一段だけ緩めた。その瞬間、眠っていた影獣が地上へ溢れた。守護隊が追い返し、村人は全員避難できたが、根元の集落は半壊。番人小屋も屋根を失った。朝まで泣き続けた子どもに、エルドは謝ることしかできなかった。

エルドは村人の避難名簿を確認し終えてから、門鍵を祭壇へ返した。番人日誌の最終頁には、開門の経緯と自分の判断ミスを残す。代々の番人は、一度でも影獣を出せば森を去る決まりだ。彼自身、幼い頃に魔力を失敗しただけで故郷から捨てられた。規則なら、三人も迷わず去れるだろう。イリスは隊長職を、マーゴは研究許可を、アマルダは領民の信頼を守らなければならない。エルドと一緒にいれば、三人まで責任を問われる。

夜、壊れた小屋へ戻ると、自分の寝具だけが雨除けの下へ移されていた。追放までの情けだと思った。だが、騎士イリスの長剣が入口へ突き立っていた。鞘に門鍵が結ばれている。

「返却は受理されなかった。守護隊長の私が預け直す」

魔女マーゴは、屋根のない床へ新しい封印陣を描いていた。自分の旅鞄を円の内側へ置き、寝床の印にする。

「影獣の漏れ道を調べる。調査期間は未定。つまり、ここに住む」

領主アマルダは、避難用の馬車を村へ返した。代わりに建築材を満載した荷車を小屋の前へ止め、領主印のついた設計書を開く。

「番人小屋では狭い。四人用に建て直す」

「俺は森を追われるんだ」

「規則は門を開いた者を一人で追うためのものではない」とイリス。

「封印を一人へ任せた側にも失敗がある」とマーゴ。

「新しい規則は、住む者が作る」とアマルダ。

エルドは返された鍵を受け取れなかった。責任から逃げたいわけではない。壊れた家を直す資格が、自分にはないと思っていた。

「また捨てられると思った」

イリスは剣を入口へ残し、マーゴは封印陣の中へ隣の寝袋を敷き、アマルダは設計書の居住者欄に四つの名前を書いた。

夜明け、世界樹の根元に新しい扉枠が立つ。

そこへ掛けられた鍵束には、最初から四人分の鍵があった。