世界樹の庭師になった日
世界樹が黒い蔓に覆われ、空から光が消えた。
各国の勇者は聖剣を振るい、大魔術師は雷を落とした。だが蔓を断つたび二本に増え、傷ついた幹から魔力が流れ出す。葉が一枚落ちるたび遠い土地の泉が枯れ、根が震えるたび空中都市の灯が消えた。強い攻撃ほど世界樹自身を弱らせている。あと一時間で世界樹は枯れると告げられた。
庭師見習いのユードは、討伐隊の荷物持ちとして根元にいた。
「素人は下がれ」
勇者に押しのけられながら、彼は初心者任務の報酬である確定SSRガチャを一度だけ回す。
必要なのは蔓を焼く武器ではない。世界樹を傷つけず、寄生した部分だけを見分けて切る道具。
出てきたのは、錆びた小さな剪定鋏だった。
《選別剪定鋏》
育つ意思のあるものを残し、他者の命を奪って伸びる部分だけを切る。
「十分です」
ユードは根元へ膝をついた。勇者たちが笑う中、最初の蔓を一箇所だけ切る。
ぱちん。
蔓は増えなかった。切り口から白い根が抜け、世界樹の幹に緑が戻る。
彼は急いでも、見分ける手順だけは飛ばさない。枝の向き、葉の裏、樹皮の膨らみを見て、一つずつ切った。討伐隊へは攻撃をやめ、落ちる蔓を運ぶよう頼む。勇者は剣を鞘へ収め、大魔術師は雷の代わりに足場の風を作った。
切られた蔓は灰にならず、奪っていた魔力を緑の雫として根へ返した。百箇所目を切るころ、黒雲に穴が開いた。
最後の蔓は幹ではなく、地下の王国魔力炉へ繋がっていた。世界樹を治す名目で、王たちが魔力を吸い上げていたのだ。
ユードは国王代理の制止を聞かず、黒い管を一度だけ挟む。
「これは枝じゃありません。寄生根です」
ぱちん。
管が枯れ、奪われていた光が世界樹へ逆流した。新芽が一斉に開き、夜だった空を緑の輝きが照らす。人々は勇者へ歓声を上げかけたが、勇者本人がユードの前で片膝をついた。
「救ったのは庭師だ」
剪定鋏の錆が剥がれ、初めて虹色の刃が現れる。
《確定SSR〈選別剪定鋏〉――世界級生命体の完全治療に成功。職業〈庭師見習い〉を〈世界樹守〉へ更新します》