世界樹の根元に集まる三本の道
樹守イルマは、世界樹の傷を塞げなかった。
三国を結ぶ大枝に黒い亀裂が入り、彼女が樹液を注ぐほど傷は広がった。森の長老たちは「未熟な守り手が根を腐らせた」と、イルマを聖域から追放した。
根元の小屋を明け渡す日、三つの国から迎えが来た。
山岳王国の騎士マグダは、家宝の剣を小屋の柱へ立て掛けた。
「我が国の森を任せたい。刃を抜くかどうかも、あなたが決めて」
湖都の学士トールンは、長机から標本箱をどけて隣を空けた。
「水上樹園を一緒に作ろう。あなたの席は用意してある」
砂漠商会の若頭ピエトロは、森の外に三頭立ての馬車を停めた。
「木のない土地へ来てもいい。戻りたくなった日のため、往復分の水を積んで待つ」
違う国、違う未来。イルマは選べず、せめて最後に世界樹へ触れた。
長老に閉じられた小屋の戸とは反対に、三人は自国の門を開いたままにすると言った。どこか一つへ来なくても、季節ごとに戻ってよいとも。イルマはその言葉を胸にしまえず、ただ根元を見つめた。
掌から樹液を一滴落とす。
大地が轟き、亀裂は枝から幹へ、幹から根へ走った。長老たちが逃げ出し、小屋の壁が崩れる。
イルマは三人を押しやった。
「離れて! 私が本当に壊した。勧誘も全部取り消して。あなたたちの国まで枯らしたくない!」
剣が抜かれる音、椅子が倒れる音、馬車が動く音がした。
また一人になる。そう思った次の瞬間、三つの音が亀裂の周りで止まった。
マグダは剣を根へ突き立てて崩落を支え、トールンは倒した机を橋にし、ピエトロは馬車の水樽を割って乾いた土へ流す。
「傷が広がったんじゃない」とトールンが叫ぶ。「古い樹皮が剥がれている!」
黒い殻の下から、淡い緑の新皮が現れる。
「あなたの樹液が再生を始めたのよ」とマグダ。
ピエトロは馬車の向きを小屋へ戻した。
「なら新しい根が落ち着くまで、ここを宿にしよう」
三人は国へ帰らず、崩れた小屋を四人で組み直した。
柱には剣、長机には空席、戸口には往復の水を積んだ馬車。一本を選ばなくても、山、湖、砂漠へ続く三本の道が、同じ根元を帰る場所として守った。
夜明け、世界樹の新しい葉が四人分の屋根を覆った。