両家顔合わせは全員代役
両家顔合わせの日、綿貫野葉月は緊張していた。
両親は海外滞在中。恋人の亥角要も、家族と絶縁状態だと聞いている。互いを心配させまいと、二人はそれぞれ別の代行会社へ親役を頼んでいた。
料亭へ入ると、葉月側の父母役と、要側の父母役が向かい合う。
「娘がいつもお世話に」
「息子こそ」
父役二人は、同じ劇団の元団員だった。
片方が小声で言う。
「お前、先月は私の兄だったな」
「今日は初対面です」
「設定を守れ」
母役同士も顔見知りだった。
「ご趣味は?」
「家庭菜園を」
「去年の案件では野菜嫌いの母でしたよね」
「家族が違えば好みも変わります」
葉月が首をかしげる。
「以前、お会いしたことが?」
「親という役割で、どこかで」
会話は危うく続いた。
要側の父役が尋ねる。
「娘さんは幼いころ、どんな子で」
葉月側の母役は即興で答える。
「よく木へ登りました」
葉月が小声で言う。
「高所恐怖症です」
「克服したのね」
要の母役は負けじと語る。
「要は三歳で九九を」
要が止める。
「高校でも七の段を間違えました」
「早熟の反動です」
酒が進むほど設定が増えた。
「父方の祖父は漁師」
「母方は華道家」
「兄が一人」
葉月が驚く。
「私、一人っ子」
父役が即座に言う。
「心の兄です」
要側の父役も対抗する。
「息子には姉が二人」
「僕も一人っ子」
「心は三人きょうだいだ」
とうとう仲居が請求書を持ってきた。
「代行会社様から、追加演技一時間分を両家へ」
葉月と要が同時に立った。
「代行?」
四人の親役も固まる。
葉月が要を見る。
「あなたも?」
「君も?」
沈黙の後、全員が笑い出した。
父役の一人が言う。
「では本日の最大の共通点は、両家とも家族を用意できなかったことですな」
母役が続ける。
「でも、結婚する二人は本物です」
葉月は要の手を取った。
「家族は二人から始めよう」
「今度は代役なしで」
親役四人は記念写真へ加わった。
「追加料金は?」と要。
父役が笑う。
「これはサービスだ。今日だけでも父親になった記念にな」
葉月は写真を見て言った。
「家族がいないどころか、急に四人増えたね」
両家顔合わせは失敗したが、家族の第一回会議だけは成立した。