主催者の呼吸管
久世は三本の参加者用ボンベを無視し、演台の裏から伸びる黒い管を自分のマスクへつないだ。
白河と京極が、それぞれ最大容量のボンベを奪い取る。
「それは音響ケーブルだ」
白河が笑った直後、久世のマスクへ冷たい空気が流れた。黒い管の途中には小さく《CONTROL AIR》と刻まれている。
このラウンドの規則は一文だった。
《二十分後、酸素を供給し続けている一つの酸素源に接続された参加者だけを勝者とする》
参加者用ボンベは三本。小、中、大。主催者は三人が容量を巡って争うよう、一本ずつわざと差を付けていた。だが規則は《支給された酸素源》とも《ボンベ》とも限定していない。
黒い管は、演台のスピーカーと壁裏の監視席へ空気を送る中央設備につながっていた。密閉された主催者側にも呼吸は必要だ。そこだけは二十分で尽きないよう、建物外の供給装置へ接続されている。
残り十五分。白河の小型ボンベが警告を鳴らす。京極は大型を抱え、久世の管を引き抜こうとしたが、床の境界線を越えれば失格になる。黒い管は久世の側にしか届かない。
スピーカーから怒声が響く。
「運営設備への接続は禁止だ!」
「今、初めて聞いた」
久世は管を軽く持ち上げた。
「しかも、これを酸素源だと認めたな」
主催者が黙る。自分の反論が、黒い管の正体を確定させてしまった。
二十分後、白河の供給は停止し、京極の大型ボンベも残量ゼロ。黒い管だけが一定の風を送り続ける。
《勝者、久世》
演台の下で解錠音がした。
主催者は、参加者が互いの酸素しか見ないと思っていた。舞台の外にいる自分も同じ気体を必要とすることを、勝利条件から隠し切れなかった。
久世は出口へ向かう前に、黒い管をスピーカーへ掲げる。
「次のラウンドを始めるなら、まず自分の息をルールから外しておけ」
黒い管の根元には逆流防止弁と流量灯があり、接続した瞬間から緑が点き続けた。判定装置が正規の供給源として数えている以上、後から運営だけが例外を主張することはできない。久世は主催者の生命線そのものを、最も確実な勝者席へ変えた。
返事の代わりに、監視席の警報が鳴った。